淡色の空

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周到と迂闊は紙一重

お久しぶりです、淡色です。

ここ最近、色々と多忙で放置しすぎました…。
もう少し忙しいのが続きそうですが、何とか頑張っていきたいところです。

さて、余りにも久々ですが、SS投下のお時間。
書く→中断→書く→中断…とブツ切れの工程で出来た代物なので、
何とも無味乾燥感漂うものになってしまったのが残念…ッ。

内容的に【「もみじ」】【山先案内人】の後日談チックな感じに仕上がっておりますので、
もしよろしければそちらもどうぞ。

それでは以下より~。

(霖之助、犬走椛)



白狼天狗が哨戒を行う範囲は極めて広い。
基本的に妖怪の山をぐるりと取り囲むように配置をされており、当番制で配属方面が変わる。
だから、昨日は魔法の森方面の担当だったが今日は違う、ということなどザラである。
とは言え、元々周囲の地形には明るく、かつ異常と言っても差し支えないほど目がいい白狼天狗には、警戒方面の違いなど大した障害ではない。
見張りの引継ぎの際、きちんとそれまでの状況を聞いておけば、そんな事は殆ど問題にはならないのだ。
故に、哨戒の引継ぎは、そういった任務を継続するために必要かつ重要な、欠かす事が出来ないものである。
内容に伝え漏れがないか、不必要な情報が入っていないかなど、十分に注意を払う必要があるのだ。
――そう、本来はそういったもののはずなのだが。

「そろそろ交代の時間だよ」
「あ、椛。お疲れー」

木々の間を飛ぶように移動し、巨木の太い枝に座り込んで見張りをしていた同僚の白狼天狗に、椛は声をかける。
すた、と自分の近くに降り立った椛に、同僚は片手を挙げながら、それに応えた。

「お疲れ様。何か変わったことあった?」
「んにゃ、何も。相変わらずいつも通りだよ」
「そっか」
「ああ、ただちょっと魔法の森が騒がしい時があったね。何か猪が暴れてたみたいだったけど……木陰でよく見えなくて、それ以上の詳細は分からなかった」
「うん、了解」

同僚の隣に立ちながら、椛は今までの哨戒報告を聞く。
今日の午後から椛は魔法の森方面の担当であったが、話を聞く限り、特に高い警戒レベルを要する出来事はなかったようだ。
少々気になる出来事はあったようだが、経過を見るしかないだろう。
――と、実に簡略ながら、哨戒の引継はこれで終了である。
尤も、これは今回の哨戒において特に注意すべき出来事がなく、椛も同僚も慣れているからこそであり、本来はもう少し厳格なものであるのだが、それは今はおいておく。
とにもかくにも、交代を迎えたこの同僚はこれから非番となり、あとは次の当番までの時間を、彼女の好きに楽しめばいいだけであるのに変わりはない。
――変わりはない、のだが。

「あ、そう言えば今朝、あの古道具屋の店主さんが山の麓までやって来てたね。一応哨戒範囲内だったから声をかけようかと思ってたんだけど、その前に紅葉神と話をしてたから、あの神に用があったみたい。店主さんはすぐ帰っちゃったし、結構離れてたせいで何を話してたかは聞こえなかったから、詳しくは分からないけど」
「……うん、まぁそれはいいんだけど……」

妖怪の山に、山に住む妖怪以外の誰かがやって来る。
その誰かが特に不穏な動きをしなくても、それは報告の対象であるし、勿論引継ぎの際に伝えなければいけないことではある。
場合によっては近くの場所を担当している白狼天狗にも伝えなくてはいけない、重要な情報だ。
決して不必要な情報ではない。
――だが、その割にどうしてそんなにニヤニヤした顔で言うのだろうか。

「それじゃ、後はよろしくねー」
「あ、うん……。お疲れ様」

颯爽と帰っていく同僚を見送りながら、椛は一人、配置につく。
そしてここ最近になって頭を悩ませている事柄について、ゆるりと思案を展開させ始めた。

――先程の同僚の妙な表情や言葉に首を傾げる椛だが、実はこんな奇特な言動をしているのは、今の彼女だけではない。
今の同僚は椛と同期であるため、特に仲が良いのだが、そうではない先輩や後輩、幾人かの上司も、魔法の森方面の哨戒に当たった後に椛を見つけると、今のように古道具屋の店主――霖之助の動向を伝えてくるのだ。
それも今のように、霖之助が山に入った時のものだけではない。
寧ろ、余り動くことのない彼らしい、本当に何気ないものが殆どである。
例えば、『今日はたまに外に出てくるくらいで、殆ど動きがなかったよ』だの、『博麗の巫女と黒白の魔法使いがまた店に来てたぞ』だの、『あの店主、何だかずっと仏頂面だよねぇ。それも悪くはないん……ああ、うん、何でもない』といったような、取り留めのないものである。
――最後のは何となく気に食わなかったので、言った後輩を無言で小突いておいたのだが、それは置いておく。

「……」

今まで同僚が腰掛けていた枝に腰を下ろし、椛は遠く広がる山の裾野をぼんやりと眺めた。
しかし、椛の意識は目に映る景色へとは向いていなかった。

――うーん……。

その胸中には、焦りにも似た感情が渦巻いていた。
――先ほど述べた、周りの奇特な行動。
これに対し、椛もはじめは訳が分からずにただ聞いている他無かった。
しかし、こうも何度も同じような事が起こると、さすがに椛も何が原因なのかを思考せざるを得なくなってくる。
そうして何度か考えて、可能性として最も高いと弾き出された結果は、その全てが椛としては余りよろしくないものであった。

「……文様か……後は、見られてたかのどっちか、か……」

まず一つ目が、椛が霖之助から贈呈品を貰った事など、諸事情を知っている文が起点となっているという可能性だ。
椛が霖之助と懇意にしている――無論、実際はそんな事はないのだが、物事を大袈裟にしたがるのは最早天狗の性なのだ――と、誤った話が広まってしまっていると言う事は、十分に考えられる話である。
そしてもう一つが、以前、河童の里にやって来た霖之助を案内している光景を、哨戒していた同僚の白狼天狗に目撃されていた可能性だ。
少なくともその時、たまたま近くを見回っていた同僚にその場を目撃されているし、山の麓まで送っていったのを見られていた可能性は十二分に有り得る。
可能性の高いものとして考えられるのは、この二つである。

いつもだったら、間違いなく文のせいだろうと早々に考えを切り上げているところなのだが、今回についてはそうと言い切れない。
というのも、もし文が起点となっているのであれば、少々不自然である点が幾つかあるからだ。
椛に色々と霖之助の動向について教えてくるのは白狼天狗ばかりで、烏天狗からはそういったことがない。
もし文から情報が広まったとするのなら、まず真っ先に情報が烏天狗に広まるはずなので、これは至って不自然である。
扱う情報だって烏天狗の方が多い。
それを加味すると、尚不自然さが際立ってくる。
それに――恐らくの話だが、文は霖之助を気に入っているのも、椛が不自然さを感じる要因になっている。
贈答品を霖之助から貰った事を文に知られた時も、決していい顔はしていなかった。
そんな文が、わざわざこんな話を広めるとは思えない。
文はああ見えて中々狡猾な面もあるのだ。自分の益にならないような事は決してしないだろう。
となると、やはり残るはもう一つの方となるのだが――。

「……そっちだと、もう結構広まっちゃってるような気がするんだよなぁ……」

はぁ、と椛は深い溜息を吐く。
霖之助関連の話題で声をかけてくる白狼天狗の数は、既に一桁の数では収まらなくなってしまっている。
もしこれを沈静させるとなると、想像するだけで頭が痛くなるような労力が必要になってくるだろう。
白狼天狗以外から椛にそのような話が来ない現状を鑑みるに、話が広まっているのは白狼天狗の間だけと考えられるので、ならば放っておいてもよさそうな気はする。
人の噂も七十五日と言うし、寧ろ下手に動かない方がいいのかもしれない。
下手に動けば墓穴を掘る可能性もあるし、天狗の興味は割と他へ移りやすいので、待つのが最善でなくとも、最も労力がかからないのは間違いないだろう。

「……うん、そうしよう。何か言われても、いつもと同じようにしてればいいんだし……」

真面目な性格をしている椛は、文の他にも、何かと仲の良い同僚や仲間から弄られることが多い。
冗談を真に受けたり、感情がストレートに表情に出やすいからだろう、と椛自身は考えているが、だからこそ、そういう時に平静にしていれば、なお広まった話が沈静化するのも早まるだろう。
実際、霖之助とは贈答品を貰ったり、一度夕食に呼ばれたことがある程度のことなので、別段慌てる必要はどこにもない。
――まぁ、それはそれで、ちょっと思うところがないわけではないが、あの霖之助という男はそういうものなのだろう。
何とも釈然としないし、腑に落ちないものがあるが、椛はそう割り切ることにした。

「……まぁ、とりあえず今は仕事をしよう」

一連の出来事は椛にとって相当頭の痛い事ではあるが、その事ばかりに気を取られて仕事にならないのは論外である。
それらを考えるのは交代後にするとして、椛はぼんやりとしていた意識を、目の前の哨戒地域に向けた。
――その向けた先に、小さく香霖堂も見える。
窓から少しだけ店内の様子も覗えるが、流石に霖之助の姿までは視認出来なかったが。

「……そうだ。何だったら、香霖堂さんに相談してみてもいいかも」

さすがに商売人だけあって、話術――どちらかと言えば詐術と言った方がいいような気もするが――に長けている霖之助だったら、こういう時どういう対処をとるのだろうか。
それを参考にするのも悪くないかもしれない。
それに、今までの白狼天狗たちの話やここからの視界を考えると、香霖堂に椛が訪れる瞬間を見られなければ、誰が中にいるのかまでは分からない。
その点と、後は霖之助本人に余計なボロを出さないようにさえ気をつければ、香霖堂を訪れるのも十分に考えうる選択肢ではある。

――明日あたりにでも、お店に行ってみようかな。

椛は香霖堂から、また妖怪の山裾野へ視線を戻す。
何にせよ、仕事を終わらせなければその後の予定は無いのだ。

「えっと、さっきの報告だと、魔法の森で何かあったって言ってたっけ」

となれば、一旦仕事以外の事は頭の隅に置いて、そちらへの注意に重きを置いて任務を遂行すべきだろう。
そうして椛は漸く、現状の確認をすべく、魔法の森へと目を向けた。


◇ ◇ ◇


「そう言えば最近、椛君と同じ白狼天狗に妙な質問をされるんだ」
「え? そうなんですか?」

次の日、相談しに香霖堂を訪れた椛に、霖之助は淹れた茶を勧めながら、先にそう切り出した。
実に不可解、と言わんばかりに眉を顰め、霖之助はつい最近起こるようになった出来事を話す。

「最近、妖怪の山に用事があることが何度かあって、その度に白狼天狗から声をかけられるんだが、まずその様子が妙なんだ」
「と言うと?」

哨戒中の白狼天狗が、山に入ってくる来訪者に声をかけるのは決して珍しくない。
怪しく思ったり、山へ入る用件を確かめる必要がありそうな人物には声をかける。基本中の基本である。
しかし、そういう場合は殆どが言葉の裏に『用がなければ安易に入るな』という雰囲気を出しているため、全員が全員と言うわけではないが、どこか突き放すような態度を取ることが多い。
それは霖之助も知るところであるはずだから、今更『妙だ』と言うはずはないだろう。
となると、一体どんな風に妙なのだろうか。
――そんな疑問を持ちながら、椛は出されたお茶に口をつける。

「互いに初めて会ったはずなのに、妙に近しいと言うか気軽と言うか……まぁ、良く言えば友好的、悪く言えば馴れ馴れしくてね。まるで僕を前から知っているような感じで話をしてくるんだ」
「……」

ごくり、とお茶を嚥下する音が、やけに大きく聞こえた気がした。
――『初対面なのに、相手が自分の顔を見知ったように話してくる』。
もしそれが本当なら、確かに初対面であるはずと思っている霖之助からすれば、首を傾げたくなるくらい妙だと思うだろう。
椛とて同じような場面に出くわしたら、霖之助と同じような事を思うに違いない。
相手が覚り妖怪なのならば、まぁ不気味さは拭えないものの、まだ理解は出来る。
しかし、理解と納得とは別のもので、やはり知らない相手から知己のように話しかけられたら、誰だって妙だと思うことだろう。

――しかし、しかしである。
もし、霖之助に気軽に話してきたという白狼天狗が、今まさに椛が霖之助に相談をしに来た件に絡んでいるとしたら。
それならば、霖之助を以前から見知っているかのような話しぶりも納得できる。
本当に『霖之助の容姿とある程度の素性は、観察して知っている』のだから。
と、なると。
山に入るたびに、白狼天狗が霖之助にするという、妙な質問とは、まさか。

「その上で、妙なことばかり聞いてくるんだ。……そうだね。例えば、『真面目な子は好みか?』だとか、『動物で言ったら狼と鳥、どっちが好きか?』だとか。ああ、何故かは知らないが、『椛はいい子ですよね』なんてのもあったな。椛君の名前が出てきたら、今聞いてみようと思った次第なんだが、何か事情を知っているかい?」
「……あ……ぅ……」

――椛の悪い予想は、ことごとく的中した。
霖之助は、それが椛のことをどう思っているのかを婉曲的に聞き出そうとしているのだという事など、欠片も気付いていないに違いない。
そうだと分かっていても、霖之助から放たれる言葉の数々に、椛は体の底から湧く恥ずかしさに俯き、縮こまるしかなかった。
耳も尻尾も、まるで飼い主に怒られている犬のようにぺたん、と寝てしまっている。
放っておけばそのうち収まるだろうと思っていた自分が、もしかしたら甘すぎたのかもしれない。
天狗の興味は確かに移りやすいが、移るまではとんでもない行動力と踏ん切りの速さを発揮する事を計算に入れていなかった。
ただそれでも、余りにも直接的すぎる話やとんでもない事を言われているわけではないようなのが、不幸中の幸いだった。
まだ何とか、取り繕うことは可能だ。
ここで何としても、今後、白狼天狗からの話を一切遮断する手をうたなければならない。
知らない、と言い切ってしまえばそれが最も安全だが、それでは不十分だろう。
今後の事を考えれば、少々危険を冒す覚悟くらいは必要だ。

「あの、えっと、ですね……。ああ、その、最近のことなんですけど、魔法の森方面を見張ってる仲間内で、このお店の事が話題になったんですよ!」
「ほう? 白狼天狗の間でかい?」
「そうなんです! ぽつんと一軒だけある建物だから、やっぱり他の皆にも目立っていたみたいで……それで、私が香霖堂さんと知り合いだと話したら、皆がそれとなく興味を持ったみたいなんです。香霖堂さんの事も、私からの情報と、あとは香霖堂さんが山に来た時に見かけたのを覚えていたんじゃないでしょうか」

――即興にしては中々上出来だと、椛は密かに思った。
少なくとも、初対面のはずの白狼天狗が霖之助の顔を知っている言い訳にはなっていたし、白狼天狗が霖之助に興味を持った理由の説明も、然程不自然ではない程度に満たしている。
尤も、霖之助は妙なところで鋭いので、油断は禁物である。
言葉の最初がどもってしまった事もあるので、その辺りは徹底しなければならない。
不自然に思われないよう、前に霖之助と話した時の記憶を総動員して、その時と同じように振舞う。
視線を不自然に泳がせず、表情もまた同様に、である。
――しかし。

「ふむ。白狼天狗の間で僕の店が話題に、か。なるほど。漸くこの香霖堂に、山の妖怪たちも注目し始めたということか。寧ろ遅すぎると言うものだが……それはそれで結構なことだな」
「え? あ、そ、そうですね」

ハラハラしている椛の胸中とは裏腹に、霖之助は如何にも満足したように薄く微笑みながら、しきりに頷き始めた。
絶対に何か疑惑の目が向いてくると思っていた椛からすれば、余りにもすんなりと通ってしまった自身の虚言に、寧ろ一瞬頭が追いつかなかった。
ただ霖之助が何やら満足そうに頷いているのを見て、椛の言葉に疑っていない事を察知し、とりあえず無難な言葉を返すのが一杯一杯であった。

「椛君の仲間たちにも、是非伝えて欲しい。『香霖堂は如何なる客も受け入れる。物珍しいのは外見だけではない』とね。僕の口からよりも、白狼天狗たちが香霖堂に興味を持つ起点となった君からの方が、恐らくは効果が高いだろうからね」
「はあ。わ、分かりました」

得意げに言う霖之助に、椛は少々困惑しつつも頷いた。
――とりあえず、である。
現状を省みるに、霖之助が同僚の白狼天狗に感じていた疑問は、上手い具合に他の事に摩り替えることが出来たようである。
店の事を誉めると得意げになる辺り、霖之助もやはり腐っても店主ということだろうか。
まぁ、お陰で苦境を抜けられたわけなのだから、それには感謝してもいいのかもしれないが。

「……ふむ。椛君が相談しに来たというのに、つい僕から話を始めてしまったようだね。それで、君の相談とは一体何だったのかな?」

少し落ち着いたのか、霖之助は出した茶を啜りながら、そう言った。
そう言えば、お茶を出されたのと殆ど同時に霖之助から話を切り出してきたので、椛の本来の目的は未だに宙ぶらりんのままだった。
ままだったが――椛はこれ以上、あの『噂話』に関する話題に踏み込むのはよくない気がした。
少なくとも今日は止めておいた方がいいかもしれない。
『変な噂を受け流す方法』を聞きに来たわけだが、その途中で何かボロを出さないとは限らないからだ。
霖之助への噂の流布対策は、予期せずに今済んでしまったため、特に急ぐものでもなくなってしまったということもあった。

「ああ、その……やっぱり大丈夫です。余り自分の中でも整理がついていなくて……。もう少し考えて、それでもダメだったら、また来てもいいですか? 今日はお店を見に来た、ということで」
「ふむ。まぁ、相談しに来た君がそう言うのなら、僕としては別にいいさ」

ただ止めた、と言えば、霖之助もきっと不機嫌になるだろう。
しかし、店を見に来たと言えば、その程度もきっと軽減されるはずだ。
――そういう目論見は、霖之助がいつも通りにお茶を飲んでいるのを見る限り、成功したようだった。

「それなら、僕からもう一つ椛君に聞きたいことがあるんだが、構わないかい?」
「はい? 私に、ですか?」

ふと、霖之助は眼鏡の位置を直しながら言った。
どうやら、椛に聞きたいと思っていたことは一つではなかったらしい。

「はい、いいですよ。何でしょうか?」
「ああ、そんなに重要なことではないんだが……。元は獣族である妖怪には、殆どが元になった獣族の名残があるだろう? 椛君なら耳と尾、文なら羽根という具合にね」
「ええ、そうですね」
「そしてそれには、『獣』としての特性も強く残っていることが多い。まぁ言ってしまえば、感情が率直に表れやすいんだ。特に喜んでいる時や怒っている時、焦っている時には、それが良く分かる。本人は無意識のせいなのか、気付いていないことが多いみたいなんだがね」
「……そう、なんですか……」

ふるり、と、椛の無意識のうちに尻尾が揺れた。
恐らくはこういう事を言っているのだろうが、こればかりは本当に意識していないと抑えられないのでどうしようもない。
――だが、重要なのはそこではない。

「……あの、それで……?」
「ああ。それを踏まえたうえで椛君に確認したいことがあるんだ。ああ、別に無理に、と言うわけではないんだが」

ふるふる、と、小刻みに尾が揺れる。
顔は平静なのだが、やはり獣としての部分は誤魔化せない、といったところなのだろう。
――ごくり、と、生唾を飲むような音がしたが、それは一体、店内にいる二人のどちらだったのだろうか。
ただ、一つだけ確実だったのは。

「――つい今まで話した事のどこまでが嘘だったのか、教えてくれるかい?」

椛が外堀を埋めるつもりでとった行動は、どうやら深い深い墓穴を掘っていたものだった、ということだった。

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コメントコメント


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無意識に尻尾が動いちゃってたもみじくぁわいいよもみじ。外堀を高くしていったら自分が居る場所が穴になっちゃってたんだね。かわいいなぁ。

そして、この同僚の白狼天狗達や上司達や後輩達とは美味しいジンジャーエールが飲めそうな気がしますwww

今回も綺麗な文章で最高でした!
執筆作業とか例大祭とか色々と頑張って下さい。

唯 | URL | 2010/12/24 (Fri) 19:10 [編集]


超久しぶりっす先輩
霖之助も無駄なところが鋭い、他に気づくところあるだろww

このまま取り繕うと嘘をつくとばれてさらに泥沼になって泣き出してしまうんですね
そして霖之助の胸でないているところを同僚にみられて
次の日には抱き合ってた、あれはうれし泣きだってことになって外堀から埋められるんですねわかります

猟奇王 | URL | 2010/12/24 (Fri) 20:56 [編集]


全力で外堀を埋めてきた妖怪の山と全力でドツボを掘る椛。 悪しからず思えば近付けばよいものを…

dhlkai | URL | 2010/12/25 (Sat) 09:37 [編集]


椛の同僚の白狼天狗はいい仕事をしていますね笑

霖之助も今回は鋭かったし椛も可愛かった!
この話の続きが気になって仕方がないです。


豆腐屋 | URL | 2010/12/25 (Sat) 13:41 [編集]


初コメ失礼します。
いつも楽しんで読ませていただいてますwww

椛霖が可愛すぎます(´∀`)
朴念仁なのに変なところは鋭い霖之助さんに嘘がバレて、涙目になって謝る椛まで見えましたwww

頑張れ椛www

新羅 | URL | 2010/12/26 (Sun) 04:44 [編集]


 
 

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