淡色の空

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

web拍手←管理人の心の栄養剤。気軽にどうぞ
PageTop

質量保存の法則

こんばんわ、お久しぶりです。淡色です。

いやはや、ちょっとこの週末、夏のお祭りに出かけていましたが、
二日目の異様なほどの込みっぷりにリアル死にかけていました。
あそこまで人多いのは初めてでしたよ……orz

まぁそういうわけで、ちょっと時間が空いてしまいました。
なんか個人的な用で空けてすみませんでした~(´・ω・`)

というわけで、お話一つを投下。

当初、ブログ拍手のお礼SSのつもりで書いていたはずなのに、
気が付いたらとてもお礼SSの長さにならなかったという、曰くつきのブツです。
ギャグを目指してみたけど、ちっともギャグになりませんでした。
あら不思議。

ナズーリンくらいの長生きの妖怪でも、ちょっと気にしていることがあれば可愛いと私は思うんです。
まぁナズーリンくらい生きてればもう達観してるだろ、と言われればそれまでなんですが!

というわけで、以下よりいつも通りどうぞ~。

(霖之助、ナズーリン)





「概して、君たちネズミは食欲が旺盛なことで知られるね」
「……ああ、まぁそうだね」

霖之助からの突然の問いかけに、ナズーリンは頷いた。
ネズミが食欲旺盛な動物であるという話自体はよく知られた事である。
繁殖能力が高いが故にそうなったのか、それとも食欲によって取り込まれた栄養分の余剰を繁殖に回したのか。
それは分からないが、とにかくネズミの食欲旺盛な食い荒らしは、時に人類に甚大な被害をもたらした事もあったほどだ。
彼らの食物に対する執念さが原因となったこともあるし、その繁殖力が原因となったこともある。
そんな小さなネズミに秘められた意外な強大な力を、彼らを使役するナズーリンが知らないはずはなかった。

「あの紅白や白黒も言っていたが、小さいからってネズミをなめない方がいいよ? 私たちは人間を億にも届く単位で殺したこともあるんだ」
「あぁ、かつて外の西欧の地で起きた『黒死病』のことを指しているのかい? 確かにそう考えれば、君たちは稀有な大量殺人者、ということになるのかな」
「そういうことさ。全く、君は話が分かって助かるよ。あの二人には未だに私が本気を出した時の危険性を理解してもらえないままさ」

はぁ、とナズーリンは溜息を吐く。
――しかし、ナズーリンの話し方と『黒死病』という事実に勘違いしそうになるが、あくまで『ネズミ自身が持つ危険性』と言う意味では、ナズーリンの言葉を全て鵜呑みにするわけにはいかないだろう。

「とは言うが、あくまで純粋に君たちネズミが持つ特性で危険なのは、その食欲とそれによる繁殖能力の高さだ。例の黒死病も、原因となった『菌』と呼ばれる悪性の生物とネズミの繁殖力、そしてそのネズミの血を栄養源とするノミの存在が偶然に合致した結果、億に近い外の世界の人間の命を奪ったということに過ぎないらしいじゃないか。あまり誇張するのも考え物だよ、ナズーリン」
「……全く、話が分かりすぎるというのも考え物だな」
「ふむ。誉め言葉として受け取っておこう」

苦々しく顔を顰めるナズーリンに、霖之助は得意気に頷く。
それが少々癪に障るとは言え、霖之助の言う事は――たまに混じる、彼独特の特徴である突飛でもない論理は真偽が判別不能であるため、除くが――大抵、核心を衝いている。
普段からの考察で培った高い思考能力と、様々な読書で得た深い知識の双方を併せ持つ霖之助ならではだろう。
そのため、こういう誇張や虚勢を含んだ言葉での脅しというものは、大抵この男には通じない。
かと言って、それなりに明確な殺意を持って脅しをかけたとしても、掴みどころの無い飄々とした調子で相手の出鼻と意欲を挫き、話術を持って黙らせてくる。
簡単そうに見えて、相手の話すテンポや性格を見抜く必要があるなど、中々出来ないことである。
だからこそ、賢将たるナズーリンが、こんなしがない店舗を構える店主に興味を持ったのでもあるが。

「……しかし、君にしてはいきなりな話題の提起だな」
「ん? ネズミの食欲についてかい?」
「ああ。何だ、君が読んでいるその本に、私達ネズミの事でも書かれていたのかい?」

――ここで、話の冒頭に戻る。
ナズーリンが霖之助にネズミの食欲について話しかけられた際、霖之助はいつも通り本を読んでおり、ナズーリンもいつも通り、カウンターの前まで引っ張ってきた椅子にちょこんと座っていた。
そして、霖之助からネズミの食欲について突然話しかけられた。
これを唐突と言わずに何と言うのか。
霖之助がこういう急な話題を振ってくる時は、大抵読んでいた本にそういった旨が書かれている場合が多い。
今回もそんなところだろう。
そう思ったから、ナズーリンはこうして尋ねたのだが。

「ああ、いや違うよ。前々から気になっていたから、ちょっと尋ねてみただけさ」
「気になっていた? 私たちネズミが食欲旺盛な事をかい? 別にそんな気にするようなことでもないと思うんだがね」

霖之助から返ってきた、ナズーリンの予測とは違った意外な言葉に、彼女は怪訝そうに眉を上げる。
そのくらい、霖之助ならとうに知っていそうなものなのだが、また妙な事を考えでもしていたのだろうか。
――ナズーリンの目の前の店主は、いつも妙なところから思考を発展させる変な癖がある。
考えている当の本人以外には心底どうでもいいようなことを、時間も忘れて徹底的に思考していることがままあるのだ。
ならば、今回もきっとその類のものだろう。
毎度のこととは言え、少しは飽きるものだと思うのだが、霖之助のことだ、そんな事はないのだろう。
ナズーリンは半ば呆れながら、霖之助に出してもらったお茶を一口啜った。
傾けた湯飲みが、思ったより軽かった。
もう少しでお茶がなくなりそうだ。

――適当に空けて、お代わりを要求しておくか。

そんな事を考えながら、ナズーリンは言葉を続ける。

「……それとも、何か気になるようなことでもあったのかい?」
「まぁ……気になったと言えばそうなんだがね。だがどちらかと言えば、ネズミそのものと言うより、ネズミの特性を受け継いでいる君の方に気になることがあってね」
「……へぇ。私に気になることがあるのかい? 嬉しいこと言ってくれるじゃないか」

ナズーリンはゆっくりと湯飲みを置くと、にやり、と笑う。
自分以外の誰かに気にかけてもらえると言うのは、やはり悪いものではない。
――特に、この全く営業する気が見えず、なおかつ常時気だるそうにしている店主に気にかけられると、嬉しさと一緒に、言葉で形容するのが難しい感情が、ゆっくりとナズーリンの内側に上ってくるような感じがする。
決して不快ではない。
寧ろ――どこか、心地いい。
ぴこり、ナズーリンの耳が動いた。
ナズーリンの機嫌がいい時に出る、一種の癖だった。

「で? 私の何が気になるんだい? 妙な事じゃないなら答えてあげようじゃないか」
「妙な事って何だい。君相手にそんな事聞くわけないだろう?」
「……そうかい」

随分とあっさりと即答する霖之助に、少し機嫌が良かったナズーリンの気持ちに陰が差す。
尻尾もそれに連動するように、くたり、と椅子から垂れ下がった。

――そうもあっさりはっきりと否定しなくてもいいだろうに。

『趣や風流を解する』と豪語する割に、他人の機微な感情の変化に疎いのが、この半妖の困った短所である。
女の方からそういうセリフを口にする事の意味くらい、他のどうでもいい事を差し置いて少々考えてもよさそうなものなのだが、今のところ、そのような片鱗すらも見せないから尚更困る。
そしていつも一言余計だ。
否定するなら『聞くわけない』だけで十分なのに、どうして『君相手に』という言葉を付加させるのだろうか。

――やはり、私みたいに子供のような奴は……。

ふと、そんなナズーリンらしくない考えが脳裏を掠める。
それに気付いて、ナズーリンはそんな考えを吹き飛ばすように、小さく頭を振った。
それは、少々深読みしすぎている内容だ。

きっと、霖之助はそういう深い意味を込めて言ったのではないだろうとは、ナズーリンも分かっている。
賢将たるナズーリンを相手に妙な事を口にすれば、それがきっかけで事態が面倒な事に発展しかねないための言葉なのだろう。
だが、霖之助本人でない以上、それは確実ではない、ナズーリンの『推論』にしか過ぎない。
真意は本人以外、もしくは地底の覚妖怪以外、言葉にしない限り分からない。

分からないが――とりあえず、今はこのことについて考えることは止そう。

ナズーリンはそう心に決めることにした。
考えれば考えるほど、決して明るい方向には向かないことであったから。

「……それじゃあ、君の気になることとは?」
「ああ。いや、大した事じゃないんだが、その前にもう一つ確認させてくれ。君の使役する子ネズミたちと違わず、君もそれなりによく物を食べる。一応僕はそう認識しているんだが、それは間違いないかい?」
「ああ、そうだね」

霖之助の言葉に、ナズーリンはしっかと頷く。
別に日がな一日何かを口にしているわけではないが、何か食べる機会があればしっかりと食べる。
その時に食べる量が少々多いのは本当のことだ。
真実であるから、別に否定したり、嘘を吐く必要はない。

「それは星君や雲居君たち、他者と比較してもかい?」
「ああ……まぁ多いのかな? 周りが少食なのかもしれないが、ご主人や雲居君よりは多いと思うがね」
「ふむ……」

そこまで聞いて、霖之助はまた何やら考え込む。
相変わらず、霖之助の思考がナズーリンは全く読めない。
一体こんな事を尋ねて何になるのか、今になっても全く分からない。
――それに、やはりナズーリンも女性だ。
決して大食いイコール意地汚いというわけではないが、余りそう言われるのは女としてイメージは良くない。
出来れば余り連呼しないで欲しいところである。

「……しかし、私には相変わらず、君が何を気にしているのかさっぱりなんだが。いい加減、君が何を考えているのか教えてくれてもいいんじゃないのかい?」
「……あぁ、そうだね。なに、そんな深いことではないさ」

ナズーリンに促され、霖之助はようやく自分の中だけに閉じ込めていた思考の蓋を開けた。
あまり他者には理解されない、その中身を。

「食欲が旺盛という事は、その名の通り、多くの食事を摂ることだ。そして食事とは、生存や成長、繁殖に必要な栄養素を得るために行うものの事を指す。つまり、食事をして取り込んだ養分を元に、生命維持や身体の成長を行っているわけだ。まぁ、僕は半妖だから、その定義からは少々外れたところにいるがね」
「ああ、そうだね。食事の意義それ自体に異論はないよ。……しかし、君は存外便利な体をしているんだな。少々羨ましいよ」
「そうかい? まぁ、確かに食事を摂る必要がないと言うと、君みたいに羨ましがったり、逆に食事を作りに来る子たちが多いが……」

ナズーリンの言葉に、霖之助はあまり理解していなさそうに首を傾げる。
これはその特性の持ち主本人だからであろう。
そういった特性を持たず、生きていくためには食事が絶対に必要な人間からすれば、食事を摂る必要がない、つまり飢えることがないということがどれだけ幸福なことなのか、きっと霖之助には生涯理解できないことだろう。
――プラス、霖之助に『食事を作りに来ている子たち』というのが誰を指しているのか、というのが、ナズーリンとしては思いっきり気になったが、とりあえずそれは置いておくことにした。

「話がずれたね。そうやって食事から摂った養分は、生きている限り何らかの用途で使われていく。しかし、その時に使われずに余剰になった分はどうなるのか。これは人間以外の動物を見ても分かるが、『脂肪』という名前で、非常用に消費される燃料として身体に蓄積されているらしい。冬が近くなると丸々と太った動物を見かけるようになるが、これは冬に行う冬眠中は一切食事を摂らないために、冬眠中の生存に使う脂肪を体の中に蓄積させた結果らしいね。せっかく摂った養分を無駄にしないために、動物が進化の過程で身につけた特徴の一つがこの非常用の体内燃料というわけだ。実に合理的な進化と言わざるをえないね」
「ふむ。……そう言えば私の子ネズミたちの中にも、丸々と太っている奴が何匹かいるが、そういうわけだったのか」
「ああ。……ちょっと確認なんだが、その太っているネズミは雌が多かったんじゃないのかい?」
「うん? ……あぁ、そうだったかもね。しかし、何故そんな事が分かるんだい?」

該当する部下のネズミを思い出しながら、ナズーリンは答える。
相当数の部下がいるため、全てを把握しているか、と問われれば自信がないが、その中で身体的に特徴がある部下くらいならナズーリンもある程度把握している。
その記憶に基づけば、確かに丸々と太っているネズミには雌が余分だったような気がする。
ナズーリンの返答を聞いて、霖之助は満足そうに頷いた。

「その脂肪なんだが、外の学術書を読んだ感じでは、雌雄によって蓄積のしやすさに差があるらしい。一般に胎生生物での話だが、雄は狩猟や天敵、同種族の雄との闘争のために体つきが筋肉質である必要があるためか、脂肪の蓄積平均値が雌のそれより若干低い。雌はその逆で、胎児を生育するための養分補填として、または外部の衝撃から内臓を守るための緩衝材として脂肪を必要としているが故に、蓄積平均値が雄よりも高い。これは人間にも十分に言えることだね。女性の方が身体に丸みを帯びているのは、人間が人間となる前から受け継いできたこの特性のためなんだろう」
「……なんだ。君も興味なさそうな顔して、見てる所は見てるんじゃないか。やっぱり体つきに凹凸のある奴の方が好みかい?」
「……あくまで一般的な話だよ。僕の趣味を言ってるんじゃない」
「……分かってるさ、それくらいは。伊達に君と付き合いがあるわけじゃないさ」

ナズーリンの言葉に、霖之助は呆れたように溜息を吐いた。
それを、冗談を言った側にしてはやや不機嫌そうに鼻を鳴らしたナズーリンが受けた。

勿論、ナズーリンとてそれを分かって言っている。
分かっているが――もし、霖之助が冗談でもそれに「是」と頷いていたのなら、怒った勢いで噛み付いた後、気まぐれに霧の湖に浮かぶ館まで行って、そこの主である頭の軽そうな蝙蝠と明日の朝までその話題で二人愚痴っていたかもしれない。
ナズーリンの脳内では一瞬でそこまで予定が構築されていたが、霖之助は頷いたわけでもないため――勿論、否定したわけでもないが――、既に考えてもしょうがない事にはなったが。
ふぅ、と吐いた霖之助の溜息で、ナズーリンはまた意識を自身の中から香霖堂の中へと戻した。

「……また話がずれたね。だがまぁ、そこで最初の『気になること』に戻るわけだ。言ったとおり、普通外部から摂取した栄養素は生存、成長、或いは非常用の備蓄として脂肪となる。つまり、生存に使用される分以外は、目に見える変化として確認出来る、というのが僕の考えなんだ。加えられたものは消えない。質量保存の法則に則れば当然のことだ。しかし……」
「――」

ごくり。
ちょうど残りのお茶を飲み干そうとしたナズーリンは、最後のお茶を飲みこんだその格好のまま、固まった。
す、と自分に向いた霖之助の視線に、ナズーリンは物凄く、嫌な予感がした。
――今の霖之助の言葉と、最初の『ナズーリンに対する気になること』という言葉、そしてネズミの特性。
そこまでヒントが与えられていて、彼が自分に抱いていた『気になること』がある程度予測できないほど、ナズーリンは莫迦ではない。
だが、ナズーリンの予感した『それ』は、出来れば触れて欲しくない部分の話題であり。
またその答えは、ナズーリン自身にも分からないために教えようがない事でもあった。
寧ろこっちが聞きたいくらいのことなのだ。そんな事を答えられるはずもない。
――更に『それ』は、霖之助には触れて欲しくない話題でもあった。
その話題を霖之助が話すのを聞けば、彼が自分をどのように認識しているかが分かってしまうから。
だから、それだけは勘弁して欲しいと、そう思った。
もしこれが他の話題であったのならば、機先を制して潰す事も可能だったのだが、余りにも咄嗟であり、しかもお茶を飲んでいるというタイミングの悪さも重なって、言葉にすることが出来なかった。
ナズーリンは空になった湯飲みを両手で持ったまま、一縷の希望を込めた縋るような目を向けながら、霖之助の次の言葉を待つ他なかった。

――そしてそれは残念ながら、ものの見事に裏切られた。
















「――ナズーリン。君はよく物を食べると自認してるし、妖怪で長寿だから繁殖にも興味はないだろう。しかし、その割に体つきが子供みたいに小さいのは何でだい?」






「そんなのは私が聞きたい事だ! 人が気にしてることを堂々と言うな! この朴念仁が!!」

ぱかーん、とナズーリンが投げた湯飲みが、見事に霖之助の額に直撃した。
ゆっくりと仰向けに、椅子ごと倒れていく霖之助の正面には、顔を真っ赤にしたナズーリンが、まるで長い距離を走ったかのように肩を大きく上下させ、湯飲みを放り投げたままの格好で立ち尽くしていた。

「痛たたた……な、何をするんだ?」
「何をするんだ、だって……?」

額をさすりながら起き上がった霖之助の言葉に、更にナズーリンの怒気が強まる。
ぎり、と食いしばる歯も、思い切り握られた拳にも、更に力が強まったのが霖之助にも分かった。
そこに至って、さすがの彼もようやく勘付いた。
――地雷を踏んだ、と。

「ふざけるな! 私だって分からずに気にしていることを、よくもずけずけと聞いてきておいてその台詞なのか!?」
「う、あ、いや、すまない。だが、単純に興味から尋ねた事だけは理解して欲しい。君は僕と同じでいつも飄々としているから、まさか今更気にしている事があったとは……」
「いいか! 君は少々、いや、大分人の気持ちに無頓着すぎる! 確かにもう生きて大分長いが、私だって気にしていることの一つや二つある!」

いつものナズーリンとは違う、激高に任せた彼女の言葉に、霖之助は目を白黒させる他ない。
だがその反応は、何も霖之助だけに限った物では無い。
突然見たこともない程激高する友人を前にすれば、誰だって同じ反応をすることだろう。
そんな霖之助に構わず、ナズーリンは言葉通りの勢い任せに、二の句を継いだ。

「しかも、それを一番言われたくない君に言われたんだ! その気持ちが分かるか!?」
「あ、あぁ……いや、すまなかった。確かにいくら自分が親しいと思っている相手でも、女の子の見た目に言及したのは拙かった。配慮が足りなかったと言われても、今回は僕の方からは何も言えない。本当にすまなかった」

霖之助は丁寧に頭を下げる。
ナズーリンのこの怒り具合から見れば、今回は頭を下げただけではすまないだろう事くらい、霖之助も分かっていた。
だが謝罪とは何より、まず相手に誠心誠意を見せることから始まるのだ。
本気で相手に謝るつもりがあることを示さなければ、絶対に相手には信用されない。
謝罪とは、何よりもまず『信用』がなければならないのだ。
今回のナズーリンの様子からすれば、これは今まで築き上げてきた『信用』を崩すには十分に足るものだったかもしれない。
ならば、また一から組み立て直さなければならない。
その為に、霖之助は頭を下げた。

『商売とは信用なくしては成り立たない』。

世の中の右も左も分からなかった頃、自分が奉公した大恩ある店でまず叩き込まれたことだ。
よく接客態度がなっていない、と評される霖之助だが、それはあくまで『客』でない来客が多いだけのことであり、決してそれを忘れたわけではない。
――そんな霖之助の気持ちを汲み取ったのか、ナズーリンも少しは落ち着いてきたようで。
椅子にどっかと腰掛けると、ふん、といつもよりも大分荒々しく鼻を鳴らした。

「全く、謝って済めば閻魔はいらないんだ。今回は勘弁するが、次にそんなふざけた事言い出したら噛み付くからな」
「……本当にすまなかった。次の機会をくれたのは正直に感謝するよ」

薄い苦笑を浮かべながら、霖之助も倒れたままだった椅子を立て直し、腰掛ける。
これで許してもらったというのは早計だろうが、最悪のケースは回避できたと思っていいはずだ。
だが勿論、だからと言ってもういつも通りの対応に戻っていいはずは無い。
暫く――少なくとも今日中は、いつも以上に言動に気を使った方がいいだろう、と。

「お詫びと言っては何だが、今日は夕食を食べていかないかい? そんな物ですまないが、何もしないのは僕の腹の据わりも良くない。だから是非にと思うんだが」
「ふん。見え透いた物での釣り方だな。……まぁ、君にしては中々殊勝な心意気だね。せっかくだから貰っていこうか」

相変わらず仏頂面で鼻を鳴らすナズーリンだが、ぴこぴこ動く耳と尻尾から、言葉ほど霖之助の提案を不愉快に思っていなさそうだと、霖之助は判断した。
ほっと破顔させながら、霖之助は夕食の準備をすべく、席を立つ。

「――そうだ。せっかくだから、君のリクエストを聞いておこうか。何か食べたいものはあるかい?」
「……なんだ、ますます珍しいね。逆に毒を仕込む気なんじゃないかと疑ってしまうよ」
「……意外に信用が無いような事を言うね、君は。君とはそれなりに親しいと思っていたのは僕だけだったのかい?」
「いや……まぁ、そういうわけじゃないが」

幾分仏頂面に戻りつつある霖之助の言葉に、ナズーリンが逆に口どもる。

――こういう事は率直に言ってくるんだな、こいつは……。

霖之助の何気ない言葉に確かな喜色を感じたナズーリンだが、ついさっきまで激高していた事もあり、それは決して顔には出さなかった。
ややもすると簡単に緩みそうになる自分の口元をしっかりと結びながら、聞かれたリクエストに答える。

「そうだね。それじゃ、手っ取り早く鍋物がいいね。兎鍋なんか美味しそうじゃないか。肉も野菜もたっぷり入れてくれよ」
「ああ、最近僕も食べてなかったからちょうどいい。材料もあるし、すぐ準備しよう。奥に来るかい?」
「ああ。お邪魔させてもらうよ」

店の奥に向かう霖之助に促され、ナズーリンも座っていた椅子から立ち上がり、前を歩く霖之助の後をトコトコとついていく。
――何だかんだあったが、二人で食事をするというのは、悪くは無かった。

「……そう言えば霖之助君。さっき食事を作りに来てくれる子がいる、と言っていたね?」
「ん? ああ、言ったね」
「……今度、命蓮寺に来るといい。ご馳走しようじゃないか」
「? 何の気紛れかは分からないが……まぁ、前向きに考えておくよ。ここで断って君の機嫌を損ねてもいけない」
「……いちいち一言多い奴だが……まぁいいさ。来るなら来たで、きっとご主人も聖も喜ぶと思うよ」

どこか怪訝そうに振り返る霖之助に、ナズーリンはくすり、と笑った。
――たまには、滅多に見せることの無い料理のスキルを披露してもいいかもしれない。
きっと星や聖も嬉々として作業に混じってくるだろうが――寧ろ望むところだ、と言うのが、ナズーリンの正直な気持ちだった。
上司に向ける気持ちではないが、まぁたまにはいいだろう。

――そんな事を考えていたら、ナズーリンのあれほど悪かった機嫌も、気が付けば大分浮き上がってきていた。
これなら、これからの食事も楽しく過ごせそうであった。















「ところで、ちょっと気になったんだが。何でさっきの質問を僕に言われるのが嫌だったんだい?」
「――ガブリ」
「!?」



web拍手←管理人の心の栄養剤。気軽にどうぞ
PageTop
 

コメントコメント


管理者にだけ表示を許可する
 

何故に盆暮れ正月といった、人様と逆の時期ほど忙しいのか。
随分と感想に間が空いてしまいましたが、ナズー霖の気配を察知して書き込ませていただきます。

基本、妖怪の摂取した養分は分不相応な身体能力やらに費やされるのだろうと、ナズーリンの叫びを読みながら考えたり。
燃費が恐ろしくいいのは、運動以上に飲み食いが好きな人には羨ましい限りかと。
最後に……ああ、もう霖之助。どうしてそこで養分の行き先を体の成長に限定するのか。鼠について話していたのなら、当然もう一つ考察すべき養分の行き先が――

色々汚れているなあ、と自分に呆れつつ。
次の話も楽しみに待っております。では

コモレビ | URL | 2010/08/17 (Tue) 02:06 [編集]


ナ「コレみてどうおもう」
霖「すっごく大食感です」
ナ「嬉しいこと言ってくれるじゃないか」

霖之助地雷踏みまくりだなww
レミリアも子供みたいな体系してるし、鼠ってつくからかな?実際栄養いきまくって霖之助よりも背が高くて
グラマなナーズリン・・・無理あるなw
普段から聖なんかの胸見てがっくりしてるんだろうな
次は命蓮寺に食事にきた霖之助が聖ばっかりと話して
やっぱりああいう体系が好みなのかとがっくり来る話ですねわかります

猟奇王 | URL | 2010/08/17 (Tue) 21:26 [編集]


見た目を気にしているナズーリン可愛いよ。
まあ、私は小さめの方が好みなので関係ないですがw

豆腐屋 | URL | 2010/08/20 (Fri) 20:41 [編集]


 
 

トラックバックトラックバック

トラックバック URL
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)


 
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。