淡色の空

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半分ずつの昼下がり

お昼時にもこんにちは~。

さて、先日アリスさんのプロットが爆発炎上の後に消失してしまったことを受け、
そのショックをバネに急遽繰り上げ当選して書いたお話をUP。

今回は程よく短い(いや、あんまり書くことがなかったわけではn(ズカーン))ので、
ちょいと手が空いた時間に流し読めるサイズとなっております。

今回は慧音さんご登場となっております~。
こういう間柄いいなぁ……という作者の願望が多分に混じっているので、
そこらへんを綺麗にスルーしながらご賞味ください。

では以下よりドウゾ~。

(霖之助、慧音)



「君は、その能力を私事に使ったことはあるかい?」

香霖堂のカウンターごしにそう尋ねたのは、魔法の森近くに古道具屋を構える店主である。
一方、来客用に出された椅子に腰掛け、そう尋ねられたのは、その古道具屋を訪れた、店主とは付き合いの長い人里の守護者だった。
店主――森近霖之助のその質問に、守護者――上白沢慧音は、ぴくり、とその端正な眉を少し吊り上げた。
どう見ても、カチンときていた。

「あるわけないだろう。里の守護者としても、半獣としても最低限の分別くらいは弁えてる。……それとも何だ? それなりに長く一緒にいて、随分とお互いを知っているはずなのに、お前が知っている私はそんな事をするような奴なのか?」
「おいおい。興味本位で聞いてみただけだよ。そう目を吊り上げなくても、君がそんな人物じゃないのはよく知ってるよ」

霖之助は困ったように笑いながら、旧友を宥める。
久々に会った旧友は、見た目は以前よりも大人びてはいたが、中身の方は相変わらずであった。

――全く、相変わらずこういった冗談が通じないんだな。

その変わらなさに、霖之助は懐かしさ半分の苦笑を浮かべた。
昔から真面目な優等生タイプであり、それと同時に何事も真に受けやすい性格をしていたが、そのあたりは少しも変わってないらしい。
霖之助とてかつて小さかった頃は、腕白なやんちゃ坊主だったわけでは決してない。
むしろ、ある意味では今より遥かに荒んでいたくらいで、一緒にいた慧音にすら、話をしようとしなかったくらいだ。
だが、何かと干渉してくる慧音とはそのうち打ち解け、よく冗談を言い合うようになってからは、こんなふうにお叱りをくらったものだ。
――もうどのくらい前になるか、あまり覚えていないくらい過去のことだが。

「まぁ、君が私事で能力を使うわけないと分かっていて聞いたんだから、君が怒るのも正当ではあるけどね」
「全くだ。昔からだが、たまに答えを分かりつつも私に尋ねてくることがあったな。相変わらず、そういうところは変わってないんだな」

はぁ、と慧音は溜息を吐く。
――久々に旧友として顔を合わせ、互いに思ったことは、どうやら双方同じであるようだ。
あんまりにも同じだったので、思わず霖之助はくすり、と笑った。
それを視界の端に捉えていた慧音は、訝しそうに霖之助を見やった。

「ん? 何かおかしかったか?」
「あぁ、いや。そういうわけじゃないさ。気にしないでくれ」
「そうか? ……しかし、さっきのは答えは分かっていたにしろ、お前にしてはやや意味深なことを聞いてきたな。何か気になっていたのか?」

特に霖之助の笑みを気にはせず、慧音はそう尋ねた。
――無論、霖之助も、ふと思いついたから尋ねたわけではないのが真実だ。
慧音の能力――いや、慧音だけに限るわけではないが――については、以前から少し気になる点があった。

「ああ。君の能力は歴史の隠匿、消去と創成だろう? それは今まで通ってきた歴史というレールを書き換える、使い方によっては余りにも強大な能力だ。実際、どういうふうに能力を行使しているのかは知らないが、使い方によっては歴史を好きに出来るほど強大が故に、ふとした弾みに行使したい、という気持ちも強いはずだ。そのあたり、君でもどういうふうに感じているのかと思ってね。まぁ、確かに少し意味深ではあるけど、やっぱり興味本位なのには違いないさ」
「……なるほど。そういうことか」

ようやく要領を得た、とばかりに慧音は頷く。
そして。

「……そうだな。確かに、そういった感情が全くなかった、とは言い切れないのが正直なところだな」

霖之助の言葉を、あっさりと慧音は認めた。
守護者たりえる能力も人格も有する慧音が、こうも素直に、それと反する感情があったことを認めたのは、彼女をよく知る霖之助にとっても存外意外だった。

「……意外だな。君なら例えそうだったとしても、守護者としての体裁もあるから、絶対に認めないと思っていたんだが」
「まぁ、今話している相手がお前じゃなかったら、きっと私もそうしていただろうな。互いに互いを殆ど知っているんだ、もう隠すこともないだろう?」
「……まぁね」

確かに慧音の言う通りではある。
霖之助と慧音はまだ子供だった時分、共に稗田の屋敷で暮らしていたことがある。
いついつまで一人では寝られなかっただの、実は好き嫌いがとんでもなく多かっただの、もし霖之助が歴史を消去出来るのであれば是非とも消したいような過去を、お互いが知っているのだ。
成長し、霖之助が里を出てからはそこまで付き合いが過密ではないが、 確かに今更隠し事など、という気分ではある。

「……しかし、君でさえそう思うことがあるのだから、レミリアは実は大した自制心の持ち主なのかもしれないな」
「ん? レミリア? 誰のことだ?」

ふと呟いた霖之助の言葉に、慧音は即座に聞き返した。
そういえば霖之助が知る限り、慧音はあの吸血鬼とは面識がなかったはずだ。
レミリアが何かの気紛れで人里に出向かない限りは会うことがないのだから、恐らくは『無い』という霖之助の推測は正しいだろう。

「ああ、慧音は名を知らなかったか。例の紅魔館の主のことだよ」
「あぁ、紅魔館のことは知ってる。吸血鬼と聞いていたが、なるほど、そこの主人のことか」
「その子は運命を操る能力を持っていてね。慧音、君が過去を操作できるなら、彼女は未来を操作できるんだ。普段はなかなかに我儘っぷりを発揮しているが、君の話を聞く限り、彼女に対する評価を改める必要がありそうだ」
「うむ、是非そうした方がいいぞ。やはり便利な能力というのは、持っているという意識だけでその人物の性格を容易に豹変させかねないものでもあるからな。……ところで、そのレミリアというのはどんなやつなんだ?」

自分と似たような能力を持っていると聞いたからなのか、慧音はレミリアに興味を示す。
過去と未来、似ているようで違う能力者のことであり、かつさすがに霖之助には及ばないが、知識欲も旺盛な慧音では無理からぬことであったろう。
ふむ、と一つ拍を置いて、霖之助は答えた。

「そうだね。吸血鬼であることは知っているみたいだが、見た目は魔理沙や霊夢たちより少し年下くらいの子だね。吸血鬼の割に日傘を差して昼の外を出歩けるくらい、吸血鬼としての弱みを克服しつつある大した子だよ。ごくごく偶にだが、従者と一緒にうちの店にも来ることがあるよ」
「ほう。吸血鬼の名前の割には、随分と可愛らしい年頃の格好をしてるんだな」
「まぁ見た目はね。実年齢は僕の五倍近いから、僕や君と比べたら随分と年長者なんだがね」

――そう、本来なら随分と年長者なのだ、レミリアは。
だが、霖之助へと見せる普段の仕草では全くと言っていいほどその片鱗を感じさせないため、つい子供として扱ってしまうのだが、本人はそれがいたく不満らしく、よく文句を言ったりもしている。
普通、人間であれば年齢は見た目や雰囲気、威厳という形で現れるものだが、妖怪は精神への依存割合が高いため、外見年齢が精神年齢に引っ張られる傾向が強い。
だからレミリアやナズーリン、文など、霖之助と比較しても極めて年齢が上の妖怪であっても、その仕草や雰囲気が見た目の年齢に相応しいものしか感じられないのだろう。
だが今の話から、仕草や雰囲気と思考能力はやはり別物であり、重ねた年齢に応じたものが培われるのかもしれない。
あるいは、一つの館の主らしい人格が、実はレミリアには備わっているのか。
いずれなのかは不明だが、そうでなければあのレミリアが自身の能力を濫用しないなど、正直なところあまり考えられないのだから。

「……だがまぁ、君ですら私事による使用を考えたことがあるんだから、そういった能力の使用者をあまり怒らせるものではないね。どういう弾みで使われるか分からないから、怖くて堪らないな」

レミリアが不満そうにしているのは幾度となく見ているが、一応本気で怒らせたことは未だない。
もっとも、レミリアほどの相手を怒らせてしまったら霖之助など、もうこの幻想郷には存在しないものになってしまうかもしれない。
霖之助の言葉に、慧音ははぁ、とやや呆れたように溜息を吐いた。

「……そもそも怒られるようなことをしなければいいんだ。昔は今ほど皮肉屋ではなかっただろう? 口は災いの元とも言うし、あんまり変な事を言わない方がいい、ということだ」
「……ご尤もすぎて反論もないよ」

かつての馴染みの言葉は、他の誰よりも端的で、かつ遠慮がないほど率直だった。
言葉の核心を真っ直ぐに衝いてくるそれは、長い付き合いがそうさせているのだろう。

――だが、霖之助は幽香とも付き合いは長いが、それとはどこか違う。
慧音とのそれは、年月を重ねて重ねて、余分なものや不必要になった無駄なものが全て削ぎ落ちてしまい、本当に必要なものだけが残ったようなものであり。
単に遠慮や思慮のない乱暴な言葉のような、肝心なものが削ぎ落ちている言葉とは本質的に全く異なるものである。
付き合いが長いと、互いに互いを知り尽くしている分、余計な修飾語や過度な遠慮の必要性がなくなっていくが、これはまさにそれの典型だろう。
互いに半分人間で、かつ半分人外が混じる霖之助と慧音だからこそ、あまり顔を合わせなくなっても行き着ける領域だ。
もし二人が縦や横の繋がりが希薄な――無論天狗のような、そういう縛りが強い種族は除くが――純妖だったなら、有り余るほどの寿命を有していたとしても、果たして現在のようになり得たかは不明だ。
逆に人間であっても、その短すぎる寿命では、たまに会う友人としての付き合いならなかなかこうはならない。
霖之助自身としてはあまりいい過去がないことではあるが、半分人間だからこそ、である。
――ただ、そんな人間でも、この領域以上の場所に到達できる、或いはできている人は、それこそ数え切れないほどいる。
余計なものが全て削ぎ落ち、極端なものでは『こそあど言葉』のような極端な抽象言語だけで会話が成り立っている、まるで覚り妖怪に近いやりとりを可能としているほどの領域だ。
そんなバカな、と思うが、霖之助自身も修行時代の霧雨家でよく目にしていた。
率直で遠慮が無いが、どこか温かみがある言葉や心情のやりとりが出来る付き合い。
それは人間で言うところの――。

「……ふむ」
「ん? 何だ?」
「いや。こういうふうに君と無駄がない率直なやりとりをしてると、夫婦っていうのはこういうのを言うんだな、って思っただけさ」
「――な――」

そう、ただ純粋に思ったことを、霖之助は口にした。
まさか自分が、かつて目にしていた霧雨の旦那と奥方のやり取りの片鱗を感じさせるような経験をするとは、齢百を超えてただの一度も想像したことがなかった。
半分妖怪であるがゆえに――妖怪に付き物である他人への無関心さと、思い出したくもない過去も相まって――それほど他人に関心のなかった自分が、である。
子供だった時分には、まるで想像もしなかったことだ。
あの頃には思いもしなかったことに驚いたものだと、そういうふうに慧音に告げたつもりではあった霖之助だが。

「な――な――」
「? 慧音?」

慧音は先ほどから、声にならない声を上げながら、まるで狸に化かされたかのように瞬きを繰り返している。
それと共に不思議なくらい顔を真っ赤にしているが、これは一体どうしたことだろうか。
今日はとりなべて暑い気候でもないし、この店内が暑いわけでもない。
ないのだが、慧音はしきりに落ち着きなく、目線をあちこちへとやりながら――だが決して、霖之助を直視しようとはしない――、よく分からない事を口走り始めた。

「あー、いや、なんだ、その……いつの間に、と言うかだな、ああ、別に困るとかそういうわけじゃ……だが、何と言うか……」
「何だ、どうした? そんなに驚くほど、君も僕がそのくらいに誰かと話すことが出来るようになるとは思ってなかったのか? まぁ、僕の小さい頃を知っている君なら、そのくらい驚くのも分からないでもないが」
「――は? ……話すことが、できるように、なる……?」
「ああ」

ぽかん、と、さっきまで瞬きしまくっていたのとは正反対に、慧音の表情が固まった。
それでも相変わらず顔が不思議なくらい真っ赤なままだが、とりあえず慧音から返事が返ってきたために、霖之助は続ける。

「まぁ、確かに君と一緒に暮らしてた時は、僕も思い出したくもないほど相当な人間不信だった時だからな。君みたいな親しい友人が出来るとも思わなかっただろうし、驚くのも分からんでもないが、まさか絶句するほどとは思わなかったよ」
「……友人……? ――っ!」

霖之助の言葉に、またしても慧音の表情が豹変する。
つい今までは呆然とした表情であったのが、霖之助にも見ていてはっきり分かるほど、みるみるうちに別の表情で塗り変わっていった。
強く握った手どころか、体まで震えている。
無論、慧音の表情を見れば、決して喜びで打ち震えているわけではない。
――怒り、であろう。

「……慧音?」

表情が百面相している慧音に、霖之助は恐る恐る声をかけた。
だが、その声が始動のきっかけであるかのように、慧音はきっ、と、まるで相手を殺さんばかりに霖之助を睨み付けた。

「このバカ! 大バカ! お前は昔からそうだ! 変なところで一言多いくせに、何で変なところで一言少ないんだ!?」
「……すまない、慧音。どっちなのかよく分からない」
「うるさい! そのくらい、いい加減に分かれ! 考えるのはお前の得意分野だろう!」
「ふむ……。まあ、それはそうだが……」

何故いきなり怒られなければならないか、霖之助には全く分からないが、とりあえず怒っている慧音に考えろと言われたので考えてみる。
――とりあえず、一言多いという言葉と一言少ないという言葉が同時に使われる事があるとは、それなりに書物を読み漁ってきた霖之助でも初めて経験する事だ。
言葉とは時代に応じて使われ方が変わるものだが、今のもそれに準ずるものなのだろうか。
それとも、怒りのあまりに慧音が支離滅裂な事を言ったのか。
こんな状況ではどっちなのか分からないが、とてもそんな事を聞けるような状況ではない。
それに考えろと言われたのだ、慧音に尋ねるのはルール違反だろう――。

うーん、と霖之助は更に深く思考を展開させる。
――と、自分が言い出したことではあるものの、本当にだんまりし始めた霖之助が気に入らなかったのか。

「ふん! もういい! 帰る!」

がたん!と、慧音は乱暴に椅子から立ち上がる。
そしてそのまま、ズカズカ音を立てて店の出入り口であるドアへと向かう。

「あ、あぁ。気をつけてな。また来るといい」
「暫く来るか! このバカ!」

ばたーん! がらがらがら。
この香霖堂を開いてから最も大きいドアの開閉音(ドア非破壊)が、霖之助の耳をつんざいた。
今までドアを壊した場合でも壊さなかった場合でも、その開閉音の騒音記録保持者は魔理沙であったのだが、まさか慧音にその一つを更新されるとは、霖之助は夢にも思っていなかった。
――まぁ、とりあえずドアが壊れることはなかったので、何でもいいのだが。

「……と言うか、怒らせるのが怖いと言っておきながら、早速慧音を怒らせてしまったな……」

一体全体、どういう理由で慧音がああも怒りを露わにしたのか。
あるとすれば、霖之助と慧音の会話に意味の行き違いがあり、それが元になったのだろうが――。

「……とりあえず、今日相手にしていたのが慧音でよかった……」

ほぅ、と霖之助は安堵の溜息を吐く。
もし今のがレミリアだったら、慧音のあの怒りようだ、運命を操るなどというまどろっこしい方法よりも直接手を下されたかもしれない。
さすがにあの口うるさい閻魔の世話になるつもりは、霖之助にはまだなかった。

――口は災いの元、か。

確かにその通りだと、霖之助は今日、痛感することとなったわけだった。
怒っていても『もう来ない』ではなく、『暫く来ない』と言ってくれる大切な友人を怒らせないためにも、少し気をつけよう、と霖之助は思った。


 ◇ ◇ ◇


――人里への帰り道。
その道中を歩く慧音の足音は、まだ荒々しかった。

「――ふん!」

がすっ、と道端に転がる小石を思いっきり蹴った。
白澤でない時の慧音の力は人間のそれよりも僅かに強いくらいだが、そうとは思えないほど小石は見事に宙を高速で滑空し、慧音の視界から消え去った。
きらーん、と音がしたような気もするが、気のせいだったかもしれない。

「あのバカ! 紛らわしいことばっかり言って!」

――昔から、妙に言葉が足りないところがあるにはあった。
恐らく本人には分かりきっている内容を話すため、いちいち口に出して言うのが面倒なのだろう。
面倒を出来るだけ避けたいと思っている霖之助らしいことではあるが、それがいいことであるはずがない。
――特に、ついさっきみたいな会話で肝心な部分が抜けると、これはもう致命的だ。
いらぬ誤解を相手に与えるだけでなく、それが誤解だと相手に知れた時の反動は、通常の場面での言葉が足りない時の反動に数倍する。
――今の慧音のように。

「言ってるそばから! 言葉には気をつけろと言ったのに! 何考えてるんだアイツは!」

確かに『変なことは言わない方がいい』と慧音は言ったが、『変なこと』と『省いてはならないこと』の区別も未だにつかないのだろうか。
そのくせ、自分の考えた論理や考え、興味のあることに関しては、放っておいてもいらぬところまで話してくるのだから、もうどう注意したらいいものか、付き合いの長い慧音にも分からなくなってくる。
慧音に尋ねてきた能力の使用に対する意識云々、というのが最たる例だろう。
普通、他人の能力の効力は気にしても、それを使うときの使用者の心など気にはしないものだ。
だが霖之助は、そういう所に限って興味を持ってくる。
そういうところを少しでもいいから他の部分に向けたらいいのに、とは慧音も大分前から思っていたのだが、今日の様子を見る限り、全く向いていないのを身をもって知ることになってしまったのだが。

「――はぁ」

あらかた叫んで少し落ち着いたのか、慧音は大きな溜息を一つ吐き、がっくりと肩を落とした。
今日は少々、疲れた。
――主に、精神的に、だが。

「……私事に使ったこと、だって……?」

ぽつり、慧音が呟いたのは、霖之助が発端だった質問だ。
霖之助はふとした弾みに、と言っていたが、要約すれば『何か不都合があったとき、それを消せる能力を有しているのだから、その能力を使って消してしまおう、或いは作り変えてしまおうと思ったことはあるか?』ということであろう。
その答えは、その時に慧音が既に述べた。
つまり、『使ったことはないが、使おうと思ったことはある』、ということだ。

「……使ったことなんて、あるわけないだろうが……」

そう、慧音は使ったことはなかった。
それは慧音の今までの記憶にもはっきりと残っている。
記憶漏れや思い違いなどない、ただの一回も使ったことがないことを、慧音はしっかりと覚えている。
――何故なら。

「……使ってたら、まだこんな間柄じゃないだろうに……」

慧音の呟きは、ふと吹いた風のさざめきに融けて消えた。
誰と、とは言わない。
だがもし能力を使っていたのなら、まず真っ先にその『誰か』との関係を、もっと違うものになっている歴史を作っているはずなのだ。



――それは、慧音が随分と付き合いの長い旧友に持つ、たった一つの隠し事であった。



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コメントコメント


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短い里帰りから帰還してみると、話が三話も更新されていて驚いた。コモレビです。
一つ一つに感想を書きたいと思うけど、それだと長くなってしまおうので簡潔にいかせていただきたく。

原作風に道具や蘊蓄について語る系統の話もすきですが、カップリングだけどくっついていないもどかしい系の話も大好きな雑食系香霖堂ファンなだけに、毎回にやにやしながら話を読ませていただいております。

能力を使えるけど使わないというのは、一種の女の意地なのかなあ、と思いながら楽しんだ今回の話。
次回は誰が、もしくは何が(ゲーム機とか携帯電話とか)登場するのか。
夏の暑さにはビールか冷酒と呟きながら、楽しみに待たせていただきます。

コモレビ | URL | 2010/07/28 (Wed) 22:46 [編集]


はじめまして
SSをいつも楽しみにてマース

慧音が能力使ってたら関係は変わってたかもしれませんが、その後に来る後悔と告白するかどうかで悩むあまり
精神を病みそうだから怖いww

猟奇王 | URL | 2010/07/28 (Wed) 23:55 [編集]


慧音先生凄いなぁ、僕だったら迷わず使ってしまいそうです(汗)。
ただ、能力に頼らずに霖之助さんとの歴史を創れる日はまだまだ遠そうですね。

三原王二郎 | URL | 2010/07/30 (Fri) 19:50 [編集]


 
 

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