淡色の空

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

web拍手←管理人の心の栄養剤。気軽にどうぞ
PageTop

懐かしき邂逅と双嵐の予感


どんどんと秋も深まる頃ですが、そんな時期に秋の神様でなく、
たまに起きる慧霖が書きたくなる発作のため、久しぶりの慧霖な一本です。
しかし、そのくせ霖之助さんは出てこないという(話題等には出てきますが)。

多少の矛盾がありますが、話的には【思い出補正】に繋がるような感じです。
それでは以下より~。

(慧音、霊夢、魔理沙(、霖之助))


――自分のそれとは比較にならない大きな手のひらが、頭の上にぽすりと乗せられる。
そうしてから『彼』は、見上げなければならないくらい高いところにある顔の表情を、他の大人のお客に向けられるものよりかは幾分自然な笑みの形にしてから、ゆっくりと手櫛で髪の毛を梳くように撫でてくれた。

――慧音が『彼』と会った時は、大体はこんなやり取りから始まった。

それは里で一番繁盛している道具屋の店先で会う時もだったし、偶々通りを歩いていてその姿を見かけ、声をかけながら走り寄っていった時もそうだった。
若干ぎこちない笑顔とは全く違う、意外に思えるほど優しくて丁寧なそれは、私の密かなお気に入りだった。

だが今の『私』は、そのお気に入りのはずの感覚を、まるで他人事のように受け入れていた。

『撫でられている』という感覚こそあったが、まるで幽体離脱してもしているかのように、自分のすぐ背後からそれを傍観しているような感じと言えば、この妙な感覚も分かりやすいだろうか。
それは普通に考えれば、随分と不可思議な状況である事に間違いはないのだが、そんな風になるのもある意味では仕方なかったと言えよう。

何故なら、今目の前で『彼』に撫でられている『私』は、今の自分よりも遥かに小さく、幼くて。
加えて、目の前のこの光景は、今となっては大分昔になってしまった記憶そのものであることを、はっきりと自覚できていたからだ。

つまり、目の前のこれは全て夢で、そもそもが幻想の産物であるのだから、多少の不可思議など全て範疇の内のことなのだろう。
――夢の中で、今自分が見ているモノが夢である事に気付く。
それを明晰夢と言うらしいが、実際にそれを体験するのは、慧音にとってこれが初めてだった。
自分が今、見ているものが単なる夢だと分かってしまえば、文字通り幻と化した心象風景など味気なくなるものかと思っていたのだが――意外にもそうでもなかったことに、慧音は寧ろ若干の驚きを覚えた。
何と言うか、あくまで過去の自分の記憶を追体験しているに過ぎないのだが、第三者に近い視点から見ているようなこの現状だと、まるで古い友人と『あの時はああだった』とか、『この時はこうだった』などと昔話をしているような感じに近く、単純な記憶の再現とは少し違った感覚だった。
例えば――そう。
今、自分の目の前にいる『彼』は、顔や腕といった部分の肌はその性別とは似合わないくらい綺麗であったが、この手のひらだけは違っていたんだっけ、といったような感じだ。
色こそ白いが妙に傷が多く、手のひらの皮も厚くて、ここだけは随分と男性らしかったのを、今になってもよく覚えている。
そんな武骨さの割に妙に器用で、道具の修理は勿論、偶に彼が目の前で簡単な木組みの玩具を作ってくれた時には、その淀みない手捌きに感動すらしたのも、懐かしい思い出だ。

『――』

そう思った瞬間、目の前で嬉しそうに顔を緩ませている自分とは真逆の、冷たい感覚が背中へと流れ込んできた。

――そう。今夢として見ているこの光景は、今となっては全て『懐かしい思い出』と化した偶像だった。

何故偶像かと問われれば、それに答えるのは簡単だ。
この夢から目が覚めた後、『彼』とこの時の事を思い出話として語ろうとしても、それが出来ず。
ふと出歩いた先でその顔を見かけ、簡単に声をかける方法すら、見当もつかない。
幻想の中の夢やかつての記憶の中でしか顔を合わせられない相手をそう呼ぶ事に、何の間違いがあるのだろうか。

今、少し手を伸ばせば届くような所にいるはずの『彼』は。
とうの昔に、その所在が全く分からなくなってしまっていたのだから。

『――』

今、第三者の視点から全てを見ている自分と、頭の上の手に自分の手を重ねている『自分』。
浮かべている表情は百八十度違うが、どちらの自分も、随分と高い場所にある『彼』を見上げた。

銀髪と金瞳という、明らかに里の中では浮いた特徴をしている『彼』は、かつての記憶と全く同じように――第三者の立場から見ている今の『私』には気付かないまま――やはり、どこか困ったように、笑っていた。


 ◇ ◇ ◇


空を見上げれば、見事な丸い満月が一人、ぽっかりと藍色の中空に浮いていた。
その周囲には、中天の主役を盛り立てるかのように小さな星が散りばめられ、秋の空気に揺られてちらちらとその瞬きを繰り返している。
その高みから少し目線を下げれば、今度は緑から橙赤へと綺麗に衣更えをした木々が目に入ってくる。
尤も、いくら月明かりがあると言っても夜である事に違いはないので、その鮮やかな色も昼間に比すれば大分不明瞭になってしまっているのが惜しいと言えば惜しい。
まぁいずれにせよ、星の瞬きも鮮やかな紅葉も、活気溢れる夏の時期には目に出来ないものであることに違いはない。
少し風流を解する者であるならば、こういった移ろい行く風景は酒宴の肴として十分なものであっただろうが――。

「……こうも騒がしい宴会では、そうもいかないか」

更に目線を下げ、自身の周囲を見渡しながら、慧音は誰ともなく呟いた。
――今しがた、目にしてきた季節ゆえの風景とは全く関係なく開かれる博麗神社での宴会は、いつも通りの盛況のようである。
尤もこの場合の『盛況』とは、人の数だけではない。
それも確かに多いのだが、それも相まって非常に――まぁ、良く言えば賑やかなものだった。
酒豪で知られる鬼や天狗が飲み比べをしているのはいいとしても、それに付き合わされた者が前後不覚のまま騒ぎまくっていたり、その辺で屍のように伸びてしまっている光景は、色々な意味で壮観だった。
勿論、いい意味ではないのだが。

「……ふぅ」

そんな光景をちらりと横目に流してから、慧音は持っていた杯に満ちた酒精を一口だけ呷ってから、ゆっくりと深い溜息を吐いた。
――博麗神社という場所に、多くの妖怪が集まって宴会をする、というような事を耳にしたが故に、どんなものかと一抹の不安を抱えつつ足を向けてみたのが、そもそもの始まりだった。
博麗は、立場としては妖怪よりも人間側にあるべき存在だ。
その本拠地に妖怪が集まると聞いて不安を覚えたのは、慧音からすれば当然の事だった。
だが実際にそれを目にしてみれば、その実態はただ単純に飲んで騒いで愉しもうというだけの、字面以上でも以下でもない単なる宴会に過ぎなかった。
不穏な空気など一切なく、あるのは熱気と騒音と笑い声、あと少しの呻き声がそこかしこから聞こえてくる、里でも男衆が開いている宴会と似たようなものだった。
まぁ、見る限りでは殆どが――実年齢はともかく――少女で構成されているはずのこの宴会が、里の男衆と似たような騒ぎ方をしている事については少し考えるところがあるかもしれないが、いずれにしても慧音の警戒線に引っかかるようなものでない事は確からしかった。

「……しかし、この場所で妖怪が酒宴、か……」

ぽつり、慧音は呟いた。
――そう遠くない過去においては、この目の前の光景は考えられないものだったと、慧音は聞いている。
人間は妖怪を恐れ、場合によっては退治し、妖怪は人間を襲い、食糧として食らう。
それが当たり前だったと――『彼』は、いつだったか少しだけ悲しそうに言っていた。
あの時の自分はまだ幼かったから、その言葉だけに目が行ってしまっていたが、今となってはその時の言葉にはなかった裏の意味が、頭の中に強く印象付けられている。
『彼』が言いたかったこととは、つまり――。

「……」
「あら。何だか珍しい顔がいるわね」
「ん? おお、本当だ。ここに来てまで一人酒か?」

ふと、そんな事に考えが没頭していた慧音の頭の上から、二人分の声が落ちてきた。
ついと顔を上げれば、今日の宴会の主催者である博麗の巫女と魔法使い――霊夢と魔理沙が、いた。

「何だ、お前たちか。随分と失礼だな――と言いたいところだが、まぁ事実だから仕方ないか。元々、どんな宴会かと思って来てみただけ、という部分が大きかったからな。適当に愉しんだら、適当なところでお暇するつもりだったんだ。となれば、変に絡まれないように立ち回るのが普通だろう?」
「ふぅん、そ。まぁ別にいいけど……」

ちろり、と一人でいた慧音を意味深な目で見てから、霊夢は少しだけ、深い溜息のような息を吐いた。

「……にしても、あんたもそうしてるところを見ると、半妖って皆一人が好きなのかしらね? 相変わらず霖之助さんも来てないみたいだし……」
「……?」

ふと霊夢の口から漏れた、人名らしき言葉が慧音の耳に届いた。
それは少なくとも慧音が知る人物の名ではないので、里にいる人間を指しているものではないらしい。
大方、妖怪にも顔の利く彼女の知り合いの誰かなのだろう、とすぐに慧音は思い至った――のだが、それとは全く別の方向で、慧音の気にかかった点があった。
基本的に他人に執着する事のない彼女が、その不在に対して決して少なくない落胆の色を滲ませた上で、しかも親しげに『さん』付けで呼ぶ相手など、少なくとも慧音の知る人物にはいない。
慧音自身に対してはおろか、あの妖怪の賢者にすら、霊夢は呼び捨てでその名を呼んでいるのだから、その特異性は推して知るべし、であろう。

「んー……一応、香霖にも声はかけたんだがなぁ。相変わらず、面倒臭がって出てきてないんだろ。偶には付き合ってくれてもいいと思うんだけどな」
「せっかく霖之助さん好みの月も紅葉もあるのに――って言うと、きっと『裏庭から見る分で満足だよ』とか、『騒がしくなくて気が向いたなら行ってもいいよ』、なんて言うんでしょうけどねぇ」
「あぁ、簡単に想像出来るな、それ。今からでも遅くないから、無理にでも引っ張ってくるか? すげぇ嫌そうな顔されそうだけど」
「……??」

その特異性が気にかかかっていると、今度は魔理沙の口から『香霖』という単語が飛び出してきた。
話の文脈を考えると、この『香霖』という言葉もどうやら人名を指しているらしく、しかも霊夢との会話が成立しているところを見ると、先程耳にした『霖之助』なる人物と『香霖』という人物は同一人物であるらしい。
語調や普通の名称の語彙から考えれば、『霖之助』が本当の名前で、魔理沙の呼んでいる『香霖』はきっと渾名のようなものなのだろう。
そのような渾名で呼んだり、『無理にでも引っ張ってくる』などと考えている辺り、その人物は魔理沙とも十分に親しい人物であるらしい事がよく分かる。

――この幻想郷で起こる異変を解決して回る二人が、親しげにその名を呼ぶ人物、か。

今慧音の目の前にいる霊夢と魔理沙が、人妖共に影響の大きい二人組である事に異論がある者はいないだろう。
その二人が共通して親しそうに話をしている人物という話題は、常日頃から話題を追っているブン屋でなくとも、多少は気になるというものであろう。
慧音自身、無闇にそういう話題を追うような性質ではないが、多少なり酒が入っているこの状況で少なからず興味を惹く話題が出てくれば、それに乗るのは寧ろ当然の流れですらあった。

「……ちょっといいか、二人とも。さっきから言っているその『霖之助』という人は、一体どんな人物なんだ?」

何の気なしに、慧音はそう割って入る。
――話の腰を折られて、やや不機嫌そうな返事が来るか、或いは単純に知り合いであることを、興味もなさげに言い放たれるか。
二人から返ってくるであろう答えは、恐らくその二つのうちのどちらかだろうと慧音は思っていた。
例外があるとすれば――霊夢は余り他人には興味を示さないので、恐らくは魔理沙が――その人物が慧音の思っている以上に二人と親しかった場合に限り、自分の知己である事を嬉々として語ってくれるくらいのものだろう。
まあ要はその例外でない限りは、返答としては実に無味乾燥なものが返ってくるのだろうと、慧音はそう思っていた。
――の、だが。

「……別に。昔からの、何て言うか……まぁ、付き合いの長い知り合いよ」
「あー……うん、まぁそうだな。腐れ縁……ってのもちょっと違うかもしれんが、そんな感じのだな」
「……ふむ」

返ってきた言葉は、前述の通り。
その言葉だけを見るのであれば、どちらかと言えば慧音の予想のうちの後者、無味乾燥なものに当てはまるものであった。

しかし、それに付随して見えた霊夢と魔理沙のやり取りと態度が、慧音の予想の遥か斜め上を音速で滑空していくようなものだった。

内輪で話している時は何ともないのに、その話題に関知しない第三者に対して『それ』を説明をしようとした途端、妙に言いづらそうにしている事に加えて、霊夢はあからさまにこちらから顔を背けているし、魔理沙も視線を明後日へと向けながら頬を掻く等、どこか照れくさそうにも見える仕草と雰囲気は、妙に既視感のある光景だった。
と言うか、つい最近、これと同じものを間違いなく目にしたばかりのような気がしてならないのだが。
確かあれは――放課後の寺子屋の教室で、数人の女子がひそひそと恋愛話をしていた時、だっただろうか。
その時はあくまで教師らしく早く帰るように注意を促したが、年頃の少女らしい話題を愉しむ姿と、その最中のあの何とも形容しがたい雰囲気は、慧音自身も経験してきただけあって微笑ましくもあり、かつどこか気恥ずかしさを覚えたものである。
それ故に、同種の雰囲気があれば、察知も敏感になる。
彼女達が見せた態度と雰囲気は、まさしくそれだった。
魔理沙はともかく、霊夢までそんな態度を見せるのは少々驚きだったが、驚きと共に湧いたのが強烈な興味だったのは、最早言うまでもなかった。

「成程。まぁ、お前達とその人が長い付き合いだというのはよく分かったよ。……その他にも、色々とあるようだが」
「……!」
「あん? ……何か勿体ぶった言い方だな」
「ああ、いや。すまん、言い方が悪かったな。別に何か含むものがあったわけではないんだ」

ついついどこか含んだ響きの言葉を返してしまったが、それに直接の反論は二人からはなかった。
尤も、勘の良い霊夢はその響きの意味するところに気付いたのだろう、はっとした顔付きになってはいたが、慧音はそれには気付かぬふりをした。
もし自分がもっと若かったなら、好奇心と悪戯心を抑えきれずに根掘り葉掘り追及したかもしれないが、この話題は年頃の少女にとって非常にデリケートなものなものであることを、今の自分はよく知っている。
特に霊夢のあの反応は、勘が良い事も要因の一つだろうが、それに加えて立場的にも敏感にならざるを得ないがため、という理由も多少なりあるのだろう。
ついつい面白半分に藪をつつきかけたが、これ以上不用意にそれを刺激するのは、酒の席とは言え流石に気の毒に過ぎよう。
そう思い直して、慧音は話の主体を元の方向へと戻した。

「……しかし、その『霖之助』という人は、話を聞く限りでは人間ではなさそうだな。里にいる者なら、まぁ全部とは言わないが殆どの顔と名前を知っているが、その名前は聞いた事がないんだが」

事実、『香霖』だの『霖之助』だのと呼ばれている者の名前は、少なくとも慧音は里では耳にした事がない。
そして人間が里以外の場所で暮らしている事など、目の前の二人と妖怪の山の上にいる風祝以外、殆どいない。
それらの情報から、その渦中の人物が人間でない事を推測する事は、慧音でなくとも自然な事だった。

「ああ、まぁあいつは人間と妖怪のハーフだって言ってたからな。昔から少しも見た目が変わらないし、人間かどうかで言えば人間じゃなないんだろうけど」
「……ハーフ?」
「言っちゃえば、あんたと似たようなものよ。半人半妖なのよ、霖之助さんは。あくまでそれは霖之助さんの自己申告だし、生活を見てれば人間のそれなんだけど、魔理沙の言うとおり見た目は変わらないし、放っておくと食事も睡眠もしないで本ばっかり読んでるから、本当なんでしょうけど」
「だな。そんな感じだから、私達が行って世話してやらないといけないんだ、あいつはな」

はぁ、と、どこか困ったような感じで霊夢は溜息を吐き、一方で魔理沙はいつもの明るい表情を浮かべる頬に、薄い紅を浮かべた。
一見、二人の浮かべている表情は全く違うが、そこから感じる雰囲気は同種だ。
どちらも、親しい誰かに向けて苦笑を浮かべながら『しょうがない奴だなぁ』と言っているに過ぎないのだ。
そこに呆れの色は多少なりあれど、それに対する難渋の色は全くない。
同性ならば、その仕草や反応で色々と確信するものがある。
やはり先程の慧音の予想は、全くの見当違いではなかったらしい。
――にしても、まさかこの二人が随分と慕っているのが半人半妖だというのには、慧音にも少なからぬ驚きがあった。
この幻想郷にハーフという存在が全くいないわけではないが、元からそういう種族であるという半人半霊と、後天的にそうなった自分自身を除けば、今までの生涯でたった一人しか目にしたことがない。
その唯一の存在である『彼』は、余り自分の昔話をしたがらなかったが、一度だけ自分は生まれつきのハーフだという話をしてくれたことがある。
確かに『彼』は、里の大人たちとはどこか異なる雰囲気を纏っていたし、頭抜けて大きい背丈や変わった容貌から、寧ろその話は納得出来るものであったことを今でも覚えている。
妙な話だが、『彼』が人外であることの恐怖や排斥感よりも、腑に落ちる感覚の方が遥かに勝っていたがために、寧ろ『彼』に対する壁が低くなったような感覚すらあったのだ。
そういった経験と、何より自分も半人半獣という身であるからか、『ハーフ』という単語はどこか親近感すら覚えるものだった。

「……成程な。だからさっき、お前が私を見て、半妖は皆同じなのか、と言ったわけか」
「まぁそうね。……でも、よくよく考えたら全然違うわよね、あんたと霖之助さん。霖之助さんはあんたみたいに生真面目じゃないもの」
「あれで商人だって言い張ってるのも笑えるよな。趣味人って言われれば違う、って即答するくせに」
「本当にあんたの実家で修行してきたのか謎よね。まぁ、あんたとは小さい頃から面識があったみたいだから、本当なんでしょうけども」
「おっと、実家の話はここではいらないぜ」
「……魔理沙の実家、だって?」

ふと、聞き捨てならない単語に慧音の琴線が揺れた。
魔理沙が今、魔法の森に居を構えていることは慧音も知っていたが、当然そうなる前に住んでいた実家についても知っている。
彼女の姓は『霧雨』である事を考えれば、里に住む者ならば魔理沙と面識が一切なくとも、ある一家との繋がりを考えるだろう。
それ即ち――霧雨道具店である。
そしてその『霖之助』なる人物は、その店で修行していたと、霊夢は口にしている。
魔理沙の様子や言葉からすれば、恐らくそれは嘘でも何でもないのだろう。
――と、するとだ。
彼女達が今まで言っていた特徴に、随分と既視感の強い、一本の太い芯が通ったような気がしたのを、慧音は確かに感じた。
これでもし、他にも自分の知る特徴が合致するとしたならば――。

「……なぁ。一つ、聞いていいか?」
「? 別にいいけど」
「その、単純な興味本位で聞くんだが……その人の外見的な特徴を教えてくれないか?」
「外見ねぇ……。まぁ、いつも座ってるから分かりづらいけど、立つとかなりでかいよな。私よりも頭一つ分はでかいな。本人は余り外を出歩きたがらないから分からないが、あれで人里を歩いたら相当目立つんじゃないか? 後は眼鏡をかけてることと、銀髪で金瞳って事くらいだな」
「そうね。あとは、顔立ちは割と端正な方かしら。中身のせいで大分損してる感じだけど」
「――……」
「私としては、多少捻くれてる方がいいと思うんだがなぁ。あれで中身も完璧だったら、寧ろ嫌味くさくて私は遠慮したくなるけどな」
「……私、その考えにはいまいち共感出来なかったけど、最近になって何となくそれも悪くないかも、なんて思えるようになってきたのが、何だか嫌だわ……」
「む。……何だそれ。お前、これが分かるようになっちまったのかよ」
「……悪い?」
「いや、まぁ悪いとは言わないが……んぁあ、何だかなぁ」

がしがし、と困り顔で豪快に頭を掻く魔理沙と、細い目でじっとりと魔理沙を見遣る霊夢の間に流れる妙な空気の隣で、慧音はじっと黙ったまま、手に持った杯に映る自分の顔に目を落としていた。
――『人間と妖怪のハーフ』。『霧雨道具店で修行していた』。そして、『銀髪金瞳で高身長』。
眼鏡をかけていることと、『霖之助』や『香霖』という名称は合致しないものの、それは前者三つの特徴に比べ、後でいくらでも変わる可能性がある。
前者三つは、もう既に変えられない、或いは変えることが困難なものばかりで、しかもその三つの特徴が合致する人物を、慧音はよく知っていた。
知っていると言うか、今朝目覚めるよりも前に、己のかつての記憶の中で見たばかりだ。
目を覚ました直後には、『どうして今頃あんな夢を』と首を傾げたが、今になってみればあれは予知夢のようなものだったのかもしれない、と思えてきた。
随分と都合のいい解釈だと自分でも思うが、偶然も重なれば必然だ。
寧ろここまで来て、最後だけ『やっぱり違いました』という方がおかしいというものだろう。
それは全く根拠などない、勢いだけの思考過程だが、そう期待せずにはいられないのもまた、人の性というものだ。

「……その人は、今どこにいるんだ?」
「ん? どこって、魔法の森の入り口だよ。そこで香霖堂って言う、ガラクタ屋みたいな古道具屋をやってるんだ。もしかしたら、店の名前は聞いたことあるんじゃないか?」
「……香霖堂……そう言えば、確か霧雨の大将が言ってるのを何度か……あぁ、だからお前は香霖と呼んでるのか。成程、納得したよ」
「一応、この宴会にも呼んだんだけど、来てくれた試しはあんまりないのよねぇ。今頃、店の中で引き篭もってるんじゃないかしら」

そうして、話はまた最初の段へと戻る。
どうやらその『霖之助』なる人物は、酷く出不精であるらしい。
確か『彼』も、仕事以外では余り外を出歩くような性質ではなかったと記憶しているが、誰かに呼ばれてそれを何度も断るほど出不精ではなかった。
そこにも些かの差異があるが――まぁ、どこにいるかは聞き出せたので、後は自分の目で確かめてみようと思う。
寧ろ、適当な理由で顔を出した宴会で、思わぬところから一度切れた縁と酷似した繋がりが再び見出せたのは僥倖だったと言えただろう。
――ただ、一点だけ。
どうしても、と言うか、やはり嫌が応にも気にかかってしまうのは。
もしこの二人が言っている人物が『彼』と同一人物だった場合、もしかしたら自分は、この二人と――。

「……」
「……? 何? ねぇ、魔理沙。私の顔に何かついてる?」
「いや、何も。て言うか、私の顔にも何かついてるのか?」
「あ、ああ、いや。何でもない。気にしないでくれ」

ふと、自分でも気付かないうちに二人を凝視していたことに気付いて、慧音は誤魔化すように杯を呷った。
――何を馬鹿な、と自分でも思う。
気が早いどころの話ではない。
確かに自分は『彼』に懐いていたし、その存在に思うところがあったのも事実だが、それは随分と遠くなってしまった昔の話だ。
今更それを掘り出してどうこう、などという青い時期は、とうに過ぎているはずである。
二人に件の人物の所在を尋ね、その場所に足を向けようと思っているのも、昔の懐かしい存在と久々の邂逅を愉しむためだ。
それ以外の理由は――まぁ、実の所ちょっとだけあるかもしれないが、たとえそうだったとしても、『それ』が鬼が抱腹絶倒するくらい気が早い想像であったことに違いはない。
自分ではそんなつもりはなかったのだが、思ったよりも酔っているのだろう。
そう思い込んで、慧音は清々しく透き通った酒精と共に、その僅かでも頭を過ぎった青い想像を自身の腑中奥深くへと飲み込んだ。






そしてそれは、件の日から数日の後。

夢という幻想が現実となり、そしてその現実に若干の落胆を覚える結末を迎えたと言うが――それはまた、別の話である。

web拍手←管理人の心の栄養剤。気軽にどうぞ
PageTop
 

コメントコメント


管理者にだけ表示を許可する
 

今から修羅場シーンを期待している俺がいます!
今昔幻想郷妹大戦!

くぅ | URL | 2012/11/14 (Wed) 09:44 [編集]


どっかで見たような
確かジャスティ・・・いやなんでもないですよw

しかし魔理沙と霊夢がデレすぎだろw
つけ払ってやれよ、これじゃ霖之助が
外に行ってしまったらああなるわなw
しかも互いに気づいてないみたいだし慧音が入ってくることにより修羅場になっていくわけですね
そして慧音色に染まってく香霖堂を見ているうちにだんだんとイライラじめて最後には・・・

| URL | 2012/11/19 (Mon) 23:30 [編集]


 
 

トラックバックトラックバック

トラックバック URL
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)


まとめ【懐かしき邂逅と双嵐の】

どんどんと秋も深まる頃ですが、そんな時期に秋の神様でなく、たまに起きる慧霖が書きたくなる発作のため [続きを読む]

まっとめBLOG速報 / 2012/11/13 (Tue) 14:58


 
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。