淡色の空

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

web拍手←管理人の心の栄養剤。気軽にどうぞ
PageTop

you

今回は割と早くにこんばんわです。
現在、渋の方で『音楽霖』という企画が立案されていたので、
そちらに便乗する形で書いた掌編をこちらにも。
ちなみにイメージ曲は、『ひぐらしの鳴く頃に』の曲の『you』です。
普通、これを聞いたら慧霖が浮かぶところですが、
私は何故か幽香霖が真っ先に思いつきました。
何故だかは私にも分かりません……。
でも、微妙にすれ違う幽香霖というのもいいものだとオモイマス。

さて、それではいつものように以下より~。

(幽香(、霖之助))



「……はぁ」

さわさわ。
高い背丈が揺れて音を立てる向日葵畑で、一人幽香は溜息を吐いた。
つい、と何気なく顎を上げれば、日傘の向こうにはいつもと変わらない、青く広い空。
――あの日と何にも変わらない、ただただ青く、広い空だ。

「……今頃、どこで何してるのかしらね。あの雑種」

ぽつり、呟く独り言は、揺れる向日葵の静かな喧騒に紛れた。
それを聞く者は、動物という点では誰もいない。
今ここにいるのは、紛れも無く幽香と多くの向日葵たちだけである。
それを分かっていても尚、言葉が口を衝いて出てしまうのは――やはり、あの雑種のせいなのだろうか。

「口だけは達者で喧しかったからねぇ、あいつ。……全く。要らない癖がうつっちゃったじゃない」

ぶちぶち、また他愛も無い独り言を呟く。
その独り言に返答してくれるはずの『誰か』の姿は、今は無い。
つい先日まで、割とよく一緒にいたのだが――今は文字通り、もういないのだ。

「……」

視線を空から地面に下ろし、ふと考える。
独りだと特にやる事もないので、ここ最近は思考に耽る事が多くなった。
――そして、その思考の矛先に浮かぶのはどういうわけか、大抵が変わった毛並みの男だった。

ふと、思い出す。
確固たる己の名もない、人にも妖怪にもなりきれない『雑種』を見つけたのは、もう何度、夏を戻った頃だったろうか。
どういうわけか人里にひょっこりと混ざっていたその異分子を見つけたのは、単なる偶然だった。
尤も、あの人里で一番大きな道具屋にいたのだから、むしろ気付かなかったのは幽香の興味の範囲外だったせいというのが実際のところだろう。
とにかく、そんな目立つところにいた明らかに場違いの半端者は、どういうわけか圧倒的大多数の人間とは違い、自分を恐れなかった。
何度か凄んで見せた事もあったが、妖精すら恐れるそれも何処吹く風、という有様だった。
気付いていないはずはないと思っていたが、後で本人に聞いてみれば、『気づいてはいたが、対応が面倒なので敢えて流していた』ということらしかった。

――そういった様子を目にして耳にして、幽香は更に怒りを募らせるよりまず、笑ってしまった。
なんなんだコイツは、と。
自分と対等の力量を持ち、かつ知性も持ち合わせている同類以外は、まず真っ先に抱くであろう恐怖を、その雑種は持たなかったのだ。
畏れもせず敬遠もせず、ただ淡々と普通に接してくるその態度が、余りにも珍しくて――面白かった。
ちょうど日々に退屈を覚えていた頃だったので、『いい玩具を見つけた』とまず思ったのが、幽香らしかったと言えよう。

それからは、その雑種『で』遊ぶために、ちょくちょくその店に顔を出すようになった。

やっぱり自分の悪名は名高かったらしく、店を訪れても自分への接客は大抵そいつだった。
だから、最初から遠慮も容赦もなくいじってやった。
何を買うでもなく、ただ店先に佇みながら、その雑種が下手くそな営業スマイルを他の客に向けるのを茶化してみたりもした。
思えば、返ってくる反応としてはあれが一番面白かった気がする。
当の本人も、そういうのが向いていないと分かっていたのだろう、茶化せば色々な反応が返ってきた。

それをいちいちからかってみたり、他にも色々と構ったりいじっていたりしたら――気が付けば里で最も話をする相手になっていた。

ずっと幽香が一方的に相手をいじっていただけのやり取りも、気付けば他愛ない雑談や、お互いの趣味の話などにも花を咲かせるようになっていて。
一緒に里を見て回る事も増えたし、たまに互いの住居に行き来する事もあった。
まとまった休みを取った、という話を聞きつけて、無理やり自宅に呼んで執事擬いの事をさせた事もあったか。
物凄い不承不承と動いている感を隠しもしていなかったが、無駄に手先は器用だったので、意外と重宝した記憶も未だに鮮明に残っている。
後は――まぁ、それ以上の事も、云々。
互いの家に泊めたり泊まったりするくらいなのだから、妥当な流れだったことだろう。
別に、そういう流れを意識してそうなったつもりはなかった。
気付けば、そんな間柄だったのだ。
意外と言えば意外だったが、不思議と後悔はなかったのだ。

「……そう言えば、『それなりに一緒にいたというのに、いい加減その雑種という呼び方は止めてくれないか』なんて言われたりもしたわねぇ。懐かしいわ」

ふといつものように話している最中、急に真面目な顔をして切り出してきたと思ったら、そんな事だった。
今でもそのやり取りはよく覚えている。

『いい加減、その雑種という呼び方はやめてくれないか? ここでの呼び名はもう教えただろう?』
『どこぞの雑種が生意気言ってるわね。この私に相手してもらえるだけでも光栄と思いなさいよ』
『……やれやれ。君と知り合った事をほとほと後悔しているよ、幽香』

確か、これだ。
あれからもうそれなりの年月が経つのに、一字一句間違っていないはずだと、幽香は自信を持って言えた。
――そういう時に浮かべる、呆れたようで困ったように笑うその顔は、割と嫌いではなかったのに。

「……」

ふと思考を止めて、幽香は再び、緑の大地から青く青く澄んだ空へと目を移す。
その割と嫌いではなかった顔を思い出したら――何だか、少しだけ地面に視線を落としているのが、嫌になったのだ。
もう、簡単には見ることがないだろうその顔を、思い出したら。

「……全く。里を出るなら出るで、私くらいには一言言っておきなさいよ。あの莫迦」

ふん、と吐き捨てるように、言う。

――知り合ってから、幾度夏が来て去っていた頃だっただろうか。
いつものように、ちょっとからかうついでに顔を見に行ったら、唐突に他の店員に『あいつは店を辞めた』と伝えられた。
そう言って、ふと自分の表情を見た店員の怯えた顔を見る限り、どうやらそれを聞いた時の自分は、結構凄い顔をしていたらしい。
大の大人が怯えるくらいだったので、相当だったのだろう。
まぁ実際、その話を聞いてまず感じたのが怒りだったので、人間としての反応は間違ってはいないのだろうが。

その後、その店員に『そう』とだけ言って、幽香はすぐにくるりと踵を返した。
他にも何か言いたそうに言葉を詰まらせた店員を置いて、その日は里を後にしたのだ。
自分に一言も断りも無しに、という苛立ちのせいで、収まるどころか強くなる一方だった怒りのせいか、いつもは比較的混んでいるはずの大通りも、まるで大名行列が通っているかのように歩きやすい道だったのは、何となく覚えている。

それから、以前は何も感じなかった『独り』を、強く感じるようになった気がする。
最初は気のせいだと思っていたが、日が経つにつれ、ぽっかりと穴が空いたような感覚と。
気が付けば、記憶に残っている日々の情景に思考を向けているのを自覚したのが、決定的なとどめだった。
――とは言え、そこから自分自身で認めるようになるまで、もう少し時間がかかったりはしたのだが。

「……つくづく意外よね。私も並の人妖みたいに、寂しがりやだったのね」

ふぅ、と、またもう一つ溜息を吐く。
本当に、意外だった。
まさかたかが人妖一人が自分の傍からいなくなっただけで、こうもその相手に思考を割いている今の自分が、ただただ意外だった。
その存在が、自分の心を埋めるに足りるものであったと、失って初めて気付いた――などと、陳腐で詩的な事を言うつもりはない。
言うつもりはないが、きっとこういう時に使うのだろうなということは、何となく、理解した。

「……」

くるり、幽香の頭上で日傘が回る。
――これは、あの雑種に幽香が依頼して作ってもらった、この世でただ一つの『枯れない花』だ。
他にもいくつか作らせたり、譲ってもらった道具もあるが、どれもこの傘には及ばない。
それどころか、出来や性能において、この日傘は人里にあるどの日傘よりも頭抜けていることに疑いはない。
それは、この傘をあの雑種が渡してきた時の上機嫌さから考えても、きっと妥当な判断だろう。
――尤も、その時は随分と機嫌が良さそうに傘についての講釈を垂れてきたので、『つまらないから』と一蹴してやったのだが。
機嫌よく話していたのを遮られて、いつになく憮然とした表情を浮かべながら、『もう二度と君の依頼は聞きたくない』と言ってくれた時の顔は、今思い出しても笑えてくる。
ただ、それからずっと幽香がこの傘を愛用しているのを見て、時折満更でもないような表情を浮かべ、しかもメンテナンスはしっかりと請け負ってくれたというところは、道具を愛すると豪語しているあいつらしいと言うか何と言うか。
そういう諸々の記憶が、全て思い出になってしまったのが、何より気に入らない。
しかも、どうしてそうなったのか、未だによく原因が分かっていなかったりするのだから尚更だ。

「……喧嘩なんていくらでもしてたし、あんまり原因となるような事も思いつかないんだけどねぇ……」

軽い皮肉のやり取りに始まり、武力は行使しないものの、その直前に至るような喧嘩もした事がある。
激しく口論したり、暫く無視してやったりと、手段も様々な喧嘩をこなしてきた。
結果的に、大抵は向こうが折れて決着がつくものが殆どだったが、結構な数をこなしてきただけあって、向こうもこっちもある意味で慣れていた。
だから、その程度の喧嘩でどうこうなるという類の縁ではないはずだった。
それに、悪口なら腐るほど言ってやったが、『別れてやる』だとかいう類の台詞だけは、言ったことがなかったはずなのに――。

「……うん、それは言ったことないはず……ない……はず……?」

と思っていたのだが、それについて考えていたら、だんだんと自信がなくなってきた。
ぶっちゃけ、結構な数の喧嘩をしてきたので、その内容までいちいち覚えていないのだ。
覚えていないのだから、そもそも記憶の照合をしようがなかった。

「……言ったこと、ない……わよね? 怪しいと言えば怪しいんだけど……」

と言うか、この『現在』という結果だけを見ると、どうも『言っていない』と断言出来ない気がする。
ひょっとして何処かで口を滑らせてしまったという可能性も、割と低いものでもないのではないか。
仮に、もしも言ってしまったのなら――この『現在』は、悲しい事に非常に納得出来るものになってしまう。

あの男は生まれが生まれのせいか、誰かに必要とされなくなったら、少しも執着しない。
そんなものだったのかと、見ているこっちが吃驚するくらい、いとも簡単に諦めるのだ。
まるで吹く風に手を伸ばして、するりと指の間をすり抜けて行くかのように、あっさりと。
だから、自分に言うつもりがなかったとしても、もし何かの拍子でぽろっと言ってしまったのなら。
今のこの現状は、なるべくしてなったと言わざるを得ない。
あくまでも仮定だが、もしそうだとしたら、見事なまでの自業自得だった。

「……――っ」

もし、仮に口を滑らせてしまったと考えて――『それさえなかったなら』と、自分らしくない思考がふと鎌首をもたげた。
それに気付き、ふるふると余計な考えを振り払うように、幽香は頭を振った。

――らしくない。実に、実に。

今までは気にしなかった孤独を憂い。
残った思い出の偶像に憩いを求めているなど、『風見幽香』としてらしくないにも程がある。
別にいいじゃないか。
強くもなく、面白い話も出来ず、妙に偏屈な性格をした無愛想な人妖なんて、今までのように放っておいて忘れればいい。
ただそれだけのはずだ。
今までやってきたことと、何一つ変わらないはずだった。
――だが、既に幾度もそう思って実行しようとして、それでも今までずるずると決別出来ずにいるこの今が、すべての結論を明確に物語っているのだろう。
口ではどうとでも言えるのだが、やはり心中は、決してそうではないと語っているのだ。
他の誰でもない、『風見幽香』である自分自身が、だ。

「……悔しいけど……ふぅ。やっぱりそういう事なのね……」

ぽつり、呟いた一言は、さっきとは違って少しばかり、湿っぽかった。
――もし、もう一度あの頃に戻れるなら。
今の記憶をそのままに戻れるなら、今度はきっと、大丈夫なようにしたい。
やっぱり、独りはつまらないのだ。
今まで気にならなかったのは、きっと孤独はつまらないものだと、気付いていなかっただけなのだろう。
なら、あの雑種には気付かせた責任を取らせないといけない。
この私を、笑わせる義務がある。
いつでも目の届く、すぐ傍に居させて。
――そう居丈高に告げれば、やっぱりいつものように、呆れながら苦笑する半妖の顔が目に浮かぶ。

「……今頃、どこで何してるのかしらね。あの雑種」

再び同じ言葉を、空を見上げて幽香は呟く。
――本当に、どこで何をしているのだろうか。
どこに、何の目的で行ったのか。
仮に原因は自分にあったとしても、どうしてただの一言もなく里から出たのか。
聞きたいことはいくらでもある。
ただ、どこに行けば聞けるのかが、ちっとも分からない。
――まぁ、こうして自分も見上げている、この悔しいくらい青い空の下のどこかにはいるのだろう。
弱い存在ではあるが、何だかんだで半分は妖怪であったし、上手く危険からは避けるような奴だったので、きっと死んではいないだろう。
死んでいないのだとしたら、いつものように気だるそうな顔をしているのだろうか。
それとも、お得意の読書でもして、自らの考えに没頭しつつ不意にニヤリと笑ったりしているのだろうか。
まぁどんな顔をしているにしても、自分と一緒の時に浮かべていた表情だけは、向こうも一人では浮かべようがないはずだ。
なら――また、浮かべさせてやりたいと思う。
そもそも、たかが半妖の分際でこの『風見幽香』を放って何処かに行ったというのが、まず生意気なのだ。
だから、いつかまたその顔を見つけた時には、とりあえずその首根っこをとっ捕まえて、あの時のように笑わせてやろう。
この自分の目の届くすぐ傍で、いつものように。
だから、それまでは。
せいぜい死なないように、いつものように無愛想な顔をしていてくれれば、それでいい。

それだけを、私は、再び邂逅するまで、願い続けてやろう。


 ◇ ◇ ◇





――某日某所で交わされた、とある会話より、抜粋。




「――だから、もう少し道具は大切に扱ってくれと言っているだろう? どうしてこんなに雑に扱うんだ」
「ごちゃごちゃ煩いわね。あなたが作って私にくれた物なんだから、製作者にも作った責任があるでしょうに」
「本来の用途とは違った使い方をした道具の責任までとるつもりはないんだが」
「わざわざ製作者を探し出して、しかもメンテナンスまで頼む優良顧客に対して文句言うのかしら? ほら、やるの? それとも、無理にでもやらされたいのかしら?」
「……選択の余地がないじゃないか、全く……」
「そうそう。黙って初めからそうしてればいいのよ。そもそも雑種の分際で、私にごちゃごちゃ言うのが悪いのよ」
「……随分と久しぶりに、君の口からその言葉を聞いたよ。『……全く。君と知り合った事をほとほと後悔しているよ、幽香』」
「……『どこぞの雑種が生意気言っているわね』。……でも……」


――私はそれほど、後悔してないんだけどね――。



web拍手←管理人の心の栄養剤。気軽にどうぞ
PageTop
 

コメントコメント


管理者にだけ表示を許可する
 

各場所間違えたOTL
新でわびてきます

猟奇王 | URL | 2011/10/23 (Sun) 23:45 [編集]


霖之助さんはしんでないよね?
しんでないんだよね?

ちょいちょいyouの歌詞があって、そこに違和感無くて鳥肌。

結局、僕の鳥頭ではどうなったのかよくわかんなかった^p^

| URL | 2011/10/24 (Mon) 17:00 [編集]


あぁ強がってるけど寂しがってる幽香かわいいなぁ。かわいいなぁもう!

やっぱり幽香さんはサドっ気全開もいいけど、ちょっと女の子してる方が……何かこう、くるものがありますね。
不足気味だった幽香霖分を補充できましたー。

>後は――まぁ、それ以上の事も、云々。
>互いの家に泊めたり泊まったりするくらいなのだから、妥当な流れだったことだろう。

この二行に収められた云々の詳細をkwsk

唯 | URL | 2011/10/24 (Mon) 22:07 [編集]


昔の彼女設定きたーーーーーー

そして修羅場宴会へと続き
ヤンデレ星さんへの最後のトドメに続いていくんですねわかりません!

| URL | 2011/10/25 (Tue) 01:34 [編集]


ゆうかりんktkr
この二人って実はお似合いなんじゃないかと思う

dact | URL | 2011/10/25 (Tue) 20:04 [編集]


 
 

トラックバックトラックバック

トラックバック URL
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)


 
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。