淡色の空

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

web拍手←管理人の心の栄養剤。気軽にどうぞ
PageTop

店内の縄張り争い

暑さが一年の中でも最高の季節の夏です。
節電が叫ばれている以上、いつもより多少暑い夏を過ごすことになりそうですね。

私のイメージでは、香霖堂店内は余り涼しくないイメージです。
冬はストーブがあるから暖かいんでしょうけれども、夏はそうはいかなそう。
そんな事を考えていたら思いついたもの。
ネタ的には色々と入り混じったりしていますがw

さて、それではいつものように以下よりどうぞー。

(霖之助、ナズーリン)


「君の能力は、効率的に涼を取れる場所を探す事も出来るのかい?」
「……霖之助君。君、頭の方は大丈夫なのかい?」

そう尋ねたのは霖之助であり、そう尋ねられたのはナズーリンである。
そしてその唐突な問いかけに、ついに霖之助の頭が暑さで茹ったかと、ナズーリンは思わざるを得なかった。
と言うのもこの男は、暑さが厳しさを増していくこの時期になっても、あの見ているだけで暑くなるような服を着込み、決して涼しいとは言えない自らの店内に引き篭もっているのだ。
正直、それなりに薄着になっているナズーリンですら、この店内にずっと引き篭もっていろと言われても即答で断る自信がある。
空気の流れが悪いので、日光が直射していないにも関わらず、息苦しい暑さを感じるのだ。
その上で、この見るからに暑そうな服装を崩さずに着ていれば、それは暑いに決まっている。
自らがそんな有様なのに、その上で納涼できる場所の捜索の可否を聞いてくるなど、正気の沙汰とは思えない。
今まで拾い集めてきた道具の鑑定と下取り、それとちょっとした冷やかしで香霖堂を訪れたのはいいものの、このままでは明らかに面倒そうな頼みごとまで引き受けなければなさそうなのは、どう考えても頂けなかった。

「無論、全く問題はないよ。……だが、今年の暑さは僕でも少し厳しくてね。君なら探せないかと思って尋ねたんだが、実際どうなんだい?」
「ふん、自業自得じゃないか。まずはその暑苦しい格好をどうにかしたらどうだい? ……それに、君の頼みも出来ない事はないだろうが、物でない分少しやり辛いから面倒なんだ」

飛倉、宝塔、水脈、金脈。
そういうものを探し出す事はそれほど難しい事ではない。初めからそういうものを探せばいいと分かっているからだ。
しかし、霖之助の言う『効率的に涼をとれる場所』となると、探すものがはっきりしているようでその実曖昧だ。
気温が低い場所か。風通しのいい場所か。水気のある場所か。そしてその度合いはどれほどのものなのかなど、曖昧極まりない。
勿論、探し物であれば探せない事はないだろうし、その一つ一つを指定されれば、捜索もぐっと楽にはなる。
だがこの例年と比べても暑い中を、わざわざ探しづらいものを求めて飛び回りたくなどない。
目の前の男ほど不精ではないが、外に出るくらいなら直射日光の当たらないこの店の中の方がまだマシなのだ。

「……そうか。何事も都合よくはいかないものだな。急がば回れ、ということなのかもしれないな……」

ふぅ、と、まるで分かっていたかのように霖之助は溜息を吐く。
何事も、楽をしようとすると上手くいかないのが世の常である。
今のこれも、恐らくはその範疇なのだろう。
無理を言えばそうでもないのかもしれないが、かと言ってナズーリンに無理な頼みをすれば、その後が怖い。
彼女相手には借りは作りたくはなかった。
その点で言えば、むしろ向こうから断ってくれたのが僥倖だったかもしれない。
自分にしては、少しばかり用心が足りない頼みだった。
いくら暑いとは言え、そういう用心に気が回らないのは拙いことである。少し、自省する。

「……と言うか、避暑がしたいなら、霧の湖にでも行けばいいんじゃないのかい? あの場所は水があるし、氷精がいると聞くが」
「ああ……それはそうだがね」

ナズーリンのそんな提言に、霖之助も頷く。それは余りにも尤もな言だった。
霧の湖は、素直に水があって風通しも悪くない、避暑地としては十分な場所ではある。
そして何より、あの場所にはチルノがいる。
この季節において、彼女ほどその能力の恩恵を得たいと思う相手はそうそういないだろう。

――そう言えばレティも、この季節にはうってつけの能力を持っていたことを、何となく霖之助は思い出した。
寒気を操る能力故、冬には会いたくない妖怪の筆頭である彼女だが、この季節ばかりは事情が違う。
夏でもその能力が有効なのかは不明だが、もしかしたら多少は暑さが和らぐかもしれない。
冬ではなく今ならば少しくらいは歓迎してやってもいいと、少しだけ思う。
とは言え、夏の間の彼女は行方が杳として知れないので、チルノと違って頼りようがなく、どちらにせよ考えるだけの話ではあるが。

などと考えていると、不意に怒気とも殺気ともとれない気配を感じた。
何事か、と発生源を探すと、すぐ目の前の小さな賢将と目が合った。
――何故か、ナズーリンの不機嫌そうに細められた視線が、刺すように霖之助を睨んでいた。

「……君は相変わらず考えている事が顔に出るな。今、他の女のことを考えていただろう?」
「……仮にそうだったとしても、別に君とは関係ないと思うんだが。そもそもチルノの事を言ったのは君だろうに」
「ふん。まぁそれはそうだがね。何となく、あの氷精以外のことも考えていた気がしたものでね」
「……気のせいさ」
「どうだかね」

ふん、と疑わしそうに、ナズーリンは鼻を鳴らす。
――時折ではあるが、どうして女性というものの勘はここまで鋭いのか、と思うようなことがある。
それは今のナズーリンもそうだが、霊夢や魔理沙のような人間の少女も同様だ。
覚り妖怪のような能力を持たないはずなのに、まるでこちらの心を読んでいるかのようなことを言ってくる。
それ自体は別段焦るようなものではないものの、不可思議さに首を傾げたくなるようなことがままある。
そんなに考えていることが顔に出ているのだろうか。
これでも割とポーカーフェイスだと思っているのだが、そう思っているのは自分だけなのだろうか。

――そう言えば、親父さんにも『お前は分かりやすい奴だなぁ』なんて言われたことがあったが……まぁ、あの人の場合は付き合いも長かったわけだから、そう一概に言えるわけではないか。

もしかしたら、霖之助はレティに対して苦手意識を持っているため、それが何らかの形で顔に出ていただけなのかもしれない。
ならば、少し気をつければ済む話だ。
わざわざ掘り下げて考えるほどのものではないだろう。

「……いずれにせよ、君の言う湖へ行け、というのは正しい。正しいが、ここからは結構歩くからね。涼みに行ったのに、その移動でそれ以上の汗をかくのは割に合わないから、余り動きたくないというのが本音なんだ。だから、君にこの近くで暑さを凌ぐのに適した場所があるなら教えてもらおうかと思ったわけなんだが」
「……なんだ、単に君が出不精なだけじゃないか。そんなところだろうとは思ったがね」
「とは言うが、店の事もあるしね。店主たるもの、仕入以外ではおいそれと店を空けるわけにはいかない」
「その心意気は称賛されるべきものだと思うが……君が言うと、何だか説得力に欠けるものがあると思うよ」
「……君も大概失礼だな。その点において、僕ほど称賛されるべき人物もそうそういないだろうに」
「まぁ、君は大抵店にいるからね。本当にその点においては、だが」

はぁ、とナズーリンは溜息を隠すでもなく、堂々と吐いてみせる。
相変わらず失礼なものだが、この辺りは別に彼女でなくとも同じような反応をする輩しかいないため、特に追求はしない。
いつの世も、先を歩く者は大多数の者には理解されないのが常だ。
そこに一抹の寂寥感はあるものの、自分さえしっかりと理解していれば、それでいいのだ。

「……しかし、この近くで涼しいところ、か。確かに探そうとするなら面倒だが……そういうのは、割とご主人が得意だったりするね」
「ほう? 君ではなく、星君がかい?」
「ああ」

それは少し意外である。
彼女の場合、物を失くす姿は割と簡単に想像出来るが、探し物が得意そうな姿を想像するのは難しい。
ナズーリンという、物を探すのが得意な部下を持っているせいもあるだろうが、少なくとも霖之助の想像力ではその姿が自然なものとは思えなかった。

「……意外だな。あの宝塔の一件のせいもあるだろうが、彼女が何かを探す姿が余り想像出来ないんだが」
「……まぁ、そうだろうね。それは私も否定はしないよ」

否定はしないのか。
――それとも、否定が出来ないのか。
それがどちらかは分からないが、僅かにナズーリンの顔に浮かんだ苦笑に、何となく後者を指している雰囲気を感じた。
それだけで、彼女も彼女で苦労してきたのが分かる。そこは些か同情はする。
尤も星の場合、きっと悪気があって失くしているわけではないので、怒るに怒れないあたりが何とも言えない、といったところだろうか。

「けれどね。ご主人は何故か、建物の中でも過ごしやすい場所を探すのだけは上手なんだ。この時期なら風通しのいい涼しい場所、冬なら日当たりのいい暖かい場所、という具合にね」
「……ああ、なるほど。そういうことか」

しかし、次のナズーリンの言葉は、いとも簡単に霖之助の腑に落ちた。
――つい今しがた、星が物を探す姿が想像出来ないと霖之助は言った。
だが今のナズーリンの言葉で、先程とは正反対と言っていいほど簡単にその姿が浮かんできた。
浮かんだイメージは二つ。
一つは夏は風通しのいい、涼しい縁側でのんびりと寝そべっている星の姿で。
もう一つは、晴れて風のない冬に、よく日が差す部屋の中で、やっぱり寝ている星の姿。
まぁ、実際は寝ていると限らないのだろうが、真っ先に霖之助の頭に浮かんだ姿はそれだった。
つまり、猫が本能的に過ごしやすい場所を見つけ出す姿に、星が重なって見えたのだ。

「……星君は元々虎だが……ネコ科には変わりない、というところだろうか」
「恐らくはそういうことなんだろうね。実に便利なものだと思うよ。寒さならともかく、暑さにどうしても我慢出来なくなったら、ご主人のいる場所を探せばいいからね」
「ふむ……」

一見すれば霖之助の能力と同様地味なものだが、時期によっては便利な特技だ。
外に出たくない霖之助からすれば、十分実用に足るものだろう。
――もし更に贅沢を言えるなら、建物の中と言わず、今いるこの店の中というより狭い範囲内で探してほしいのだが、それは流石に望みすぎというものだろう。
そもそも、この店の中が暑さや寒さを凌ぐ場所として向いていないのは、霖之助とて百も承知だ。
外に出なくて済む分、その程度は我慢しなくては罰が当たりそうである。

「じゃあ、今度星君が来た時に聞いてみるか。……しかし、猫だからと言う点で言えば、橙やお燐も分かるのか? ……橙はともかく、お燐はそこそこ遊びに来るから、尋ねてみるのも手だな……」
「……あの猫たちも、ここに来るのかい?」
「ん? ああ、まぁ来るには来る、という程度でね。客だったり客でなかったり、といったところだが」
「ふぅん……なるほど」

霖之助の言葉に、ナズーリンはきょろきょろと店内を見渡し始める。
何かを探しているようにも見えるが、ロッドやペンデュラムを使う様子はない。
ただ、どういうわけか鼻をひくひくとさせているだけだ。

「……ああ、やっぱり所々に猫の匂いが微かにするな」
「ほう? ……僕にはさっぱりだが、君には分かるのか」
「そりゃあね。ただでさえ私たち鼠は猫には敏感にならざるを得ないんだ。生き死にがかかっているから尚更さ」
「それもそうか。天敵とも呼べる存在なら、そのくらい用心するのも致し方ないというものか」
「ああ。それで言えば、例外はご主人くらいだね。……しかし、やはり気分がいいものではないな……」

すん、と鼻を鳴らしつつ、ナズーリンは余り機嫌が良くなさそうに店内を歩き回り始めた。
恐らくは、店の中でお燐や橙の匂いがする場所を探しているのだろう。
この狭い店内で、かつ霖之助もいる前でそんなに敏感にならなくとも、とは思うが、先程のナズーリンの言のとおり、鼠にとって猫とはこれ以上ない天敵だ。
実際に危害が及んでいなくとも、本能的な危機を感じ取り、いつも以上に用心深くなっているのだろう。
そして、こういう時の動物というものは、概して神経質になっている場合が多い。
冷静な行動の取れるナズーリンもそうだとは言い切れないかもしれないが、その逆もまた然り。
少しの間は好きにさせておくのが無難だろう。
他の輩ならいざ知らず、彼女なら下手に店内をいじって回る心配もないなら、余計な藪蛇を出す必要はない。
――そう、思っていたのだが。

「……ふんふん」
「……何してるんだ、ナズーリン」

読みかけだった本を手に取って開き、視線を落としてからほんの刹那。
いつの間にかすぐ横にまで来ていたナズーリンが、何故か霖之助の顔の横で鼻を鳴らしていた。
何と言うか、こうもあからさまに近くで鼻を鳴らされると、如何に霖之助でも据わりが悪い。
決して、加齢臭が気になるわけではない。
誰だって同じことをされたら、今の霖之助のような行動をとるだろう。そういうことだ。

「ああ、いや。君にも匂いがついていたらどうしてくれようかと思ってね。まぁ、君からは匂いがしなかったところを見ると、あの猫たちもそこまでというわけではなかったようだが」
「君が何をどうしようとしたのかは知らないが、僕は置物じゃないよ。よほどの事がない限りは風呂にだって入るし、洗濯だってする。匂いなんて残るわけないだろう」
「それはそうか。君は面倒屋の割に、そういうところはきっちりしているからね。ふふん、結構結構」

何が面白かったのか、先程とは違って笑みを浮かべながら、ナズーリンは元いた位置へと戻っていく。
どうやら店内のチェックは終わったようだ。

「どうやら済んだようだね。何か気になるようなことはあったかい?」
「ああ、いや? 別になかったよ。まぁ、この程度なら見逃してやろうか、というところだね」
「そうかい。それは重畳」

ナズーリンの様子を見ると、あの二人が霖之助の気付かないところで妙な真似をしていたわけではなさそうだ。
店主である霖之助の知らぬうちに、変に縄張りのようなものを店内に張られても困る。
特に猫は自身の縄張りには敏感な生き物だ。
勝手に店内を自分のものと認識されて、勝手に喧嘩をされては理不尽にも程があるというものだ。
これからはそういう対策もした方がいいのかもしれないな、と霖之助は思った。

「……あぁ、でも一つだけ気になるというか、君に聞いておきたいことはあるんだが」
「うん? 何だい?」

ふと、ナズーリンは思い出したように言う。
とは言え、霖之助が問いかけたときに瞬時に浮かばなかった事だろうから、彼女にとってもさほど重要な事ではないだろう。

「何だかあの猫二匹より、ご主人の匂いの方が強い気がするんだが……もしかしてよく来るのかい?」
「……いや、来るには来るが、そう多くはないと思うよ。僕の店に来る面子の筆頭は魔理沙と霊夢の二人で相変わらず不動だからね。そもそも星君は君と一緒に来ることが多いから、お燐や橙と比べれば機会はある方だと思うが」

と言うか、頻度で言えば間違いなく多い。
八雲に属する橙や、地底に住むお燐がこの香霖堂に尋ねてくる機会などたかが知れている。
その点、星は人里近くに住んでいるという立地条件に加え、ナズーリンともよく来る。
ナズーリンと同じくらいは見る顔だと言っていいだろう。
そのくらい、彼女なら初めから思慮の範囲に入れて考えていたのだと思っていたのだが。

「それはそうなんだが……。前に一緒に来たのは大分前だったはずだが、その割には鮮明だなと思ったんだ」
「ああ、それはそうかもしれないな。星君なら昨日来たからね」
「……昨日?」

ぴくり、と何故かナズーリンが反応した。
その反応の仕方に、どことなくまずい気配を霖之助は感じた。
喩えるなら、小町が仕事をサボっている事を知った映姫のような雰囲気だった。

――まさか、星君も小町のように仕事をサボってここに来ていたのだろうか。

だとすれば可哀想な事をしたかとも思ったが、あの星に限って仕事をサボるというのは全く想像出来ない。
本人は至って真面目な人物であるし、その星がナズーリンと鉢合わせる可能性がある香霖堂にサボってまで来るだろうか。
――少し考えてみたが、可能性は低いようにしか思えなかった。
という事は、ナズーリンの反応のそれはそういう星の怠惰とはまた別のところなのだろうか。
……まあいい。
とりあえず置いておいて話を進める。星にとってはどうか知らないが、別に隠しておくようなことでもない。

「ああ、昨日だね。お昼前だったか、お裾分けを持ってきてくれたんだ。ちょうど昼餉の時間と重なったから、昼餉に誘って暫く雑談したんだ」
「……道理で昨日、お昼辺りから姿を見ないと思っていたが、そういうことか。……ふぅん」

くたり、とナズーリンの尾が面白くなさそうに揺れた。
それと共に、彼女と初めて会った時のような、相手を探る目付きで遠慮なくこちらを睨めつけてくる。
――断っておくが、霖之助にはナズーリンにそんな目で見られるような謂れは全くない。
睨みつけられるだけ理不尽である。
霖之助はただ単に、ナズーリンに涼しい場所を探せるかどうかを尋ね、断られて、その代わりに星がそういったことが特技だとナズーリン自身から教えられただけだ。

「――ふぅ」

霖之助は一つ溜息を吐いて肩を竦める。返事はそれだけだ。
触らぬ神に祟りなし。こういうときは放熱させるに限る。
そも、ナズーリンなら少し時間を置けば、早々に冷静さを取り戻すことだろう。
それを待った方が早いし、余計な手間も省ける。
――そして、そんな霖之助をじっと見ていたナズーリンは、まるで肚の底から滲み出すように、ゆっくりと呟いた。

「……気が変わった。確か、出来るだけ近い場所で暑さを凌げる場所、だったね」
「ん? ああ、避暑の話かい? 確かに僕が言ったのはそれだが……」
「探してあげるよ。まぁ、私もいちいち外に出るのは面倒だから、この建物の中という範囲でなら、やってあげてもいい」
「それは構わないが……」

唐突なナズーリンの承諾の言葉に、寧ろ霖之助は困惑する。
『外に出たくないからこの建物の中から探す』というのは寧ろ霖之助が願っていたところだが、それ以前の話として、そもそもどうして気が変わったのか。
そこの説明がなされない以上、ナズーリン相手ではどうしても不審な感情を拭えない。
何か対価を要求する腹積もりなのだろうか。
しかしこの場合、一度は断った話を向こうから承諾してきたわけだから、これをネタにふっかけるにしても少々無理が生ずる。
それが分からないナズーリンでもないだろう。
なら、一体何を考えているのだろうか。謎は深まるばかりだ。

「……何だ、君がまず頼んだだろう? ほら、早く行こう。ここはまず空気の流れが悪いから、場所を変えよう」
「お、おい。場所を変えるって、どこにだい?」
「決まってるじゃないか。店舗じゃなくて、君の居住スペースにだよ。ここよりはいくらか過ごしやすいはずだろうから、そっちに移動しようという話さ」

すたすた、と足取り軽くナズーリンは霖之助の傍に歩み寄ると、ぐい、とその腕を引っぱる。
いかに体躯に大きな差があるとは言え、彼女も妖怪だ。
その姿不相応な力に、霖之助も重い腰を上げざるを得なかった。
――と、そこまでは万歩譲って別にいいとしよう。
だが、どうしてこうもべったりと腕に引っ付いてくるのだろうか。
体躯の差のせいで霖之助は中腰にならざるを得ず、随分と歩きづらい上に体勢的にも辛い。
更に言えば、ナズーリンの小動物特有の体温の高さと密着度のせいで、ただでさえ暑いのが更に暑くなって仕方がない。

「……ナズーリン。色々と言いたいことはあるが、こうくっつかれると歩きづらい上に暑い。君に掴まれた時点で逃げるのは諦めているから、もう少しマシな体勢にさせてくれないか?」
「……君は相変わらず捻くれた奴だな。普通、少女に腕を組まれたら、もう少し喜ぶものだと思うんだが」
「暑苦しい体勢を強いられているのを喜べるほど、僕は被虐趣味ではないよ。尤も、君が存外体温が高いのは分かったから、冬だったら考えたかもしれないがね」
「へぇ、それはいい事を聞いたよ。今年の冬が楽しみだ」

ふふん、と機嫌よく笑いながら、ぐいぐいとナズーリンは霖之助を引っ張っていく。
――正直なところ、まだ営業中だとか、別にそのくらい店でやっても構わないだろうとか、言いたいことは数多ある。
だが霖之助の経験上、実際にこうして直接行動を起こされてしまってからの抗議が成った試しがない。
その殆どは霊夢や魔理沙が相手だった場合なのだが、恐らくはナズーリンにも同様のことだろう。
そもそも抗議とは、相手が対話でのやり取りを承諾して初めて成立する交渉手段である。
そのステップを飛ばしてしまっている以上、やはり口頭での抗議が成功する可能性は絶望的と見る他ない。
何でも物事は、諦めが肝心ということだろうか。
全くもって嬉しくない格言である上に、諦めたとしても暑いのは変わらないのだが。
――と言うか、ナズーリンは暑くないのだろうか。

「……君は暑くないのかい?」
「暑いに決まっているだろう」
「なら、やはり放してくれた方がお互い有益だと思うんだが」
「……まだ、断る」

『まだ』、とはどういうつもりだろうか。
額面どおりにその言葉を捉えるなら、『まだ放しては有益ではないから断る』ということなのだろうか。
……ますます分からない。
ただ分かるのは、ナズーリンも自身の言葉通り暑いのだろう、僅かに見える頬が薄い紅に染まっているということだけだ。
――全くもって、暑い季節だ。

web拍手←管理人の心の栄養剤。気軽にどうぞ
PageTop
 

コメントコメント


管理者にだけ表示を許可する
 

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

| | 2011/08/01 (Mon) 04:19 [編集]


ドキッ☆香霖堂縄張りウォーズ~ケモノ娘たちの熱い夏~
というワケ分らんサブタイトルが頭をよぎった
店主の心の中に縄張りを作るのは果たしてだれなんでしょうね

文月 | URL | 2011/08/01 (Mon) 16:17 [編集]


ナ「もっとスリスリして匂いをつけてやるぞー」
星「・・・・ナズーリンの匂いがスル・・・・モットニオイヲツケナクテハ」
ナ「・・・・ご主人のにおいがする・・・・・モットモットニオイヲツケナクテハ」
無限ループって怖くね

さらにエスカレートしてセ○ロスや匂い付け合戦③Pに発展するんですねわかります

動物組みはさらに擦り寄ってくるのか暑苦しくて仕方ないなww冬なら大歓迎かも、でも今度はジャマッ苦しいかww


霊・魔・紫「あの女の匂いがする・・・」

猟奇王 | URL | 2011/08/02 (Tue) 00:23 [編集]


仕事が一回で30時間超えてるけど問題ない。かなりお久しぶりです、コモレビです。
こうして感想を書くのは久しぶり、正直忘れられているかもしれないのですが。

ナズー霖ときたら書かずにはいられない。いえ、他の作品もちゃんと見てきていますが。

今回の話を見てて思い出したのは、暑かろうがなんだろうが手をつなごうとしてくる女の子。
汗かくの好きじゃないのに、どうしてわざわざと思うけど、そこはまあいろいろあるのでしょうね。

霖之助、女の子が強引な手段に出た時は逆らうな。おとなしく従っておけ。
でないと後々、勝手に取られた言質でチクチク責められたり、思い出話で弄られるぞ。

本当はもっとちゃんとした感想が書きたいけれど、今回はこれにてご容赦をと残して。
ではではー

コモレビ | URL | 2011/08/02 (Tue) 01:23 [編集]


女って怖いよね
いろんな意味で

dact | URL | 2011/08/02 (Tue) 02:43 [編集]


 
 

トラックバックトラックバック

トラックバック URL
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)


 
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。